フード最前線
(熊本日日新聞で連載)
    味覚ワークショップの試み    (2007-04-08)
竹田市の人たちと一緒に、いろんな調味料で豆腐を味わう筆者(中央左)

 二〇〇五年に「食育基本法できて以来、あちこちで「食育」が提唱されている。各地域での食のブランド作りも推奨されている。しかし、現場にいってみると、なかなかうまくいっていない。具体的にどう行うか、戸惑っているところも少なくない。

 そんな中、大分や佐賀など各地の農家や漁業、学校、料理家、行政などと連携して始めたのが「味覚ワークショップ」である。食材のテキストを作り、歴史的背景、加工法、同じ食材でもほかの産地との味比べなどを、実際に味わいながら学ぶというもの。ときには、それらの食材を使って料理家と料理を作る。原則は、必ずテキストを作ることと、生産の現場をきちんと伝えることだ。
 これは一度やってみると、たいていの人が面白いと賛同してくれる。これまで幼稚園の授業から、親子教室、大学、一般向けまで、三十回以上試みてきた。使う素材は、塩や米、茶、サフラン、カボス、魚、カキなど地域にあるものか、身近な食材がベースだ。
 ある地域が、新たに農産加工品を売りたいということになったとする。しかし、「それがどんな味わいや香りで、加工法などほかの地域のものとどう違い、どんな特徴がありますか」と尋ねても、答えられないことが圧倒的。地域の身近なものの背景や特徴、個性がわからなければ、ブランド作りなどできない。まして、食育で言われている、本物の味や食の文化を子どもに具体的に伝えることもままならないだろう。

 例えば豆腐。大豆の品種は五百種類以上あり、品種によって豆腐の味わいも異なる。くみあげ豆腐や絹豆腐、木綿豆腐など製法の違い、量産されている豆腐と地方で人気の豆腐との味や香り、見た目の違いなどを、徹底して比較してみるのだ。また豆腐の調味料はしょうゆが一般的だが、オリーブオイル、塩、ジャム、ハチミツ、黒蜜(みつ)、水あめなど、さまざまなものとのハーモニーを試してみるのも大事だ。
 これは、既成概念にとらわれず、新しい料理のきっかけを作るために必要不可欠だ。東京では、イタリア料理にデザートで豆腐が使われ大ヒットした。大分県竹田市は、若い女性たちが「なるほど、面白い」と共感してくれて、豆腐でチーズケーキやラザニアやプリンを作り、評判となった。
 そんな具合に、食材の比較や評価などで工夫を凝らすことが大切だ。そうすると、最終的には、加工方法や多彩な料理紹介など、内容盛りだくさんのテキストができあがるのだ。(平成19年4月8日)