フード最前線
(熊本日日新聞で連載)
    農家民泊 地域に元気もたらす    (2007-12-23)
農家民宿「ふれあい農園 おおた」の太田いく子さん。 「人との出会いが広がり、お金に代えられないものが残る」という

 このごろ、農村で話題になっているのが、農家に中学生を泊めて農業体験をしてもらう農家民泊。全国でも先駆けて取り組んできたのが長野県飯田市だ。その仕掛け人である同市役所企画部の井上弘司さんと「関東ツーリズム大学協議会」で知り合いとなった。同協議会は、東京都の人たちと首都周辺の十県の農村との交流を計画している任意団体だ。
 飯田市へは高速バスが便利だというので、東京・新宿から向かった。およそ四時間。飯田市は人口約十万人。農業はリンゴや梨など果樹栽培が中心。とくに有名なのが干し柿で「市田柿」としてブランド化され、生産が追いつかないほどの人気だという。
 井上さんの案内で、農家民泊をしている農家にうかがった。標高六百メートルの山間地にある「農家民宿 ふれあい農園 おおた」の太田いく子さん宅は、十年前から受け入れを行っている。今年だけでも百三十名近くが泊った。この地域の農家四十戸が同様に農家民泊を引き受けているという。地区で受け入れの会議や講習会なども実施されている。
「人との出会いが広がり、お金に変えられないものが残る。なにより年寄りが元気になった。おじいちゃんが、子どもたちのために水車を作ったり、ほかにも仕事をするようになった。これも触れ合いができたおかげ。おばあちゃんは、宿泊客に出す漬物担当で、こちらも元気さ」と太田さん。
 机の上には、泊まった子どもたちがノートに書いた感想が十年分きちんととってある。 都会からやってきた子どもたちにとっては初めての農家、それも普通の民家に泊まるとあって、「最初はどきどき」「うまく話せるか心配」などの感想がたくさんある。一方で、「牛に触れてとても楽しかった」「初めてのことばかりで、とても新鮮だった」と、農家の暮らしにじかに接した感動も多く寄せられている。
「たった一泊でも、なぜかみんな帰り際には泣いちゃう。女の子は必ず泣く。その後に手紙をくれたり、家族と訪ねてきたりする子もいる。『収入−経費=感動』だね」
 どうやら農家民泊は、感動や触れ合い以外に、地域全体の活性化をもたらしているようだ。その後訪ねた数件の農家でも同じ反応だった。農家に子どもたちを受け入れることが、まったく予想をしないような元気を地域にもたらしているのだ。
 農家民泊の受け入れ窓口となっているのは南信州観光公社。市、農協、地元町村が出資した株式会社だ。代表の新井徳二さんによると、学校の受け入れは二泊三日だが、地域の負担などを配慮して一泊は旅館になっているという。学校数は百十六団体、のべ二万二千泊。受け入れ農家は四五〇戸にもなるという。農家の宿泊は一泊二日で六千五百円。地域の経済効果は七、八億円になるのではないかという。今後は、高校や大学の体験教育も増やしていく予定だという。