フード最前線
(熊本日日新聞で連載)
    コウノトリ共生で地域活性化    (2008-01-20)
冬に水を張った田んぼ。その田んぼで無農薬のコメを作る、コウノトリの郷営農組合長の畷(なわて)悦喜さん(左)と、豊岡市コウノトリ共生課の宮垣均さん=兵庫県豊岡市

 二〇〇五(平成一七)年九月、兵庫県豊岡市にコウノトリが放鳥され、野山や田んぼを飛びまわるようになったことは、テレビや新聞でも報道されたので、ご存知の方が多いことだろう。
 コウノトリが戻ることで観光客や学校のエコロジーツアー、視察などに四六万人が訪れるようになった。コウノトリがやってくる田んぼの米は、相場の二倍以上で売れるようになった。環境に配慮した地元の太陽電池やペットフード関連の会社も売り上げがあがり、旅館や商店で客が増えたところも出てきた。また、コウノトリの環境支援のために基金を設ける企業もでてきた。これを同市の中貝宗治市長は「環境経済効果」と呼んでいる。
 コウノトリが放鳥されるにあり同市には、行政と民間が一体となって、鳥が生活できる環境を取り戻すためのコウノトリ共生課ができた。その試みの中に、県立コウノトリ郷公園の周辺の農家らでつくる営農組合などが冬場に田んぼに水を張る「冬期湛(たん)水水田」や、河川敷の休耕田のビオトープへの転換などがある。それらは現在、二十一地区で五十六・四ヘクタール。他の地区でも、農薬を半分以下に減らす特別栽培が行われ、こちらは百五十七ヘクタールにもなった。
 ビオトープは、休耕田に一年間水を張ったまま湿地状態にして、コウノトリの餌場に利用するもの。冬期湛水水田は、冬場に水を張り、水で雑草を抑制する効果がある。それらの田んぼには、県と市で五年間の補助金が出た。ヨーロッパで行われているのと同じ環境直接支払いという新しい制度だ。市では今後も継続させる意向という。
 ところで、現在のほとんどの田んぼでは、農薬や化学肥料が使われる。コンバインを使って稲刈りをするため、秋には水はすべて抜かれ乾田になる。また水の管理をするためにコンクリートの水路が作られている。このため、鳥の餌となるドジョウなどが生息できない環境となっている。
 冬期湛水水田での稲作は、完全な無農薬無化学肥料か、慣行の七五%減が条件。苗作りから栽培法、水の管理まで、年間の栽培暦が細かく決められている。田んぼと水路との間でフナやドジョウが行き来できる階段状の魚道も設けた。これらの取り組みは、コウノトリの餌となるドジョウやフナ、カエルなどの生き物が生息できる田んぼをつくるのが狙いだ。
 実は、冬場に水を張るという試みは、すでに千葉、茨城、福島、宮城、新潟などで行われている。マガン、ハクチョウ、カモなどが戻ってくるなどいくつかの実証事例がある。
 しかしそれらは、一部の農家の点の取り組みだった。ただ、宮城県田尻の例は行政も連携する試みで、そのノウハウが豊岡市に持ち込まれた。そしてそれは、行政が地域づくりの主体となるという日本でも例をみない活動へと発展しただ。環境が地域活性化をもたらす新しい街づくりだ。