フード最前線
(熊本日日新聞で連載)
    体験農園の参加者、新たな連携も    (2008-04-27)
体験農園で、野菜づくりの講習を行う加藤義松さん(手前)。手ぶらで参加し、上手に野菜ができると好評だ。

 農家が一般の人に野菜づくりを教えるカルチャーセンター方式の体験農園が東京に広がりつつある。練馬区の農家、加藤義松さんと白石好孝さんが一九六六年に取り組んだのが始まりだった。現在、農園は五十ヶ所で参加者は三千五百人。今年中にはさらに六十ヶ所に増える。
 従来の区民農園は区が管理を行っていたが、メンテナンスの費用が膨大にかかる上、参加を希望する区民が、実際に農園をえるのは一年か二年だった。それもまったくの素人で野菜を作るため、うまくできないケースが多い。
 そこで区と区民、農家をうまく連携させて都市農業を理解してもらい、参加する区民も上手に野菜を作れる仕組みを、というので生まれたのが「練馬方式」と呼ばれる体験農園だ。発案者の加藤義松さんの体験農園は開設して十二年。今では競争率は二・八倍と大人気だ。
 加藤さんは三百年続く農家で、百七十五アールの畑を持つ。カルチャーセンタータイプの体験農園は六十アール。残りの畑も、幼稚園や小学校向けなどの参加型の農園だ。販売のための野菜栽培はしていない。
 体験農園は、一区画三十平方メートルで百四十八区画ある。参加者は加藤さんから金、土、日曜の朝十時から講習を受け、一区画を使い野菜作りを学ぶ。一年契約だが五年間更新ができ、更新率は九〇%以上だ。五年たって再申し込みする人も少なくない。年間参加費は四万三千円。区民には同区からの一万二千円の補助があるので、三万一千円で参加できる。
 農園には鍬(くわ)などの道具や種、堆肥も用意してある。受講生には一年間の作付け計画が配布され、それにそってトウモロコシやサトイモ、ダイコン、ブロッコリー、小松菜、ホウレンソウ、ピーマン、ナス、トマト、枝豆など、年間を通して約四十種類の野菜を栽培する。
 野菜づくりを学んだ参加者から、茨城、群馬、山梨などで田舎暮らしをする人も五名誕生した。地域の小学校で食育活動のボランティアをする人や、茨城の農家と連携し、子どもたちを引率して田んぼの体験講座を開いた人もいる。
 採れた野菜を使っての料理教室、海外への農業研修ツアーなど、さまざまな人が連携した交流に発展するようになったのである。新しい出会いの発展は、加藤さんも予想もしていなかったことだ。
「体験農園は、一般の人たちに農業を理解してもらう最良の場。農家も、これまで知らなかった知識を得ることができる。最近は農業にあこがれる若い人の参加者が増え、需要も高まっている。今後、ますます広がるでしょう」と、嬉しそうに語る加藤さん。
 今後は地方の農家との連携を深めて、都市と地方の双方での農業をつないでいきたいという。