フード最前線
(熊本日日新聞で連載)
    食文化通して観光振興へ    (2007-05-13)
日本で手に入る食材を使ってギリシャ料理披露したギリシャ人シェフのK・ヴァサロス氏(左)と三國清三シェフ

 東京新宿のショールームでこのほど催しされた、ギリシャ観光協会の「KERASMA(ケラズマ=ギリシャ流おもてなし料理」の公開デモンストレーションに出かけた。呼ばれたのはマスコミ関係者と、ホテルの料理家やフードコーディネーターなど三十人ほどである。

 料理をしたのは、ギリシャ美食伝統財団理事でシェフのコンスタンティノス・ヴァサロスさんと、欧州でも一流シェフとして認められているフレンチレストラン「オテル・ドゥ・ミクニ」(東京都)のオーナー・シェフ三國清三さん。三國さんは、二〇〇四年(平成一六)年に、ギリシャの観光大使に任命されている。
 ギリシャ料理の会は、昨年にも行われ、今度は二度目。主催したギリシャ観光省の局長ソフィア・パナヨターキさんによると、観光の重要な要素としてガストロノミー(食文化)を前面に出していくという。
 日本国内で入手可能な食材を使い、タラのガーリックソース添えや、ギリシャ風揚げ菓子のハチミツシロップかけなど、ギリシャで客をもてなす際の料理が披露された。ギリシャのオリーブオイルやワインの輸出促進も考え、ホテルやプロの料理人、マスコミを中心に、ギリシャ料理を広めていく計画なのだという。
 イタリアではスローフードが有名だが、これは地域の食材から料理のPRを観光事業と連携させると同時に、それらをブランド化し、小さな農家が経済的にも継続できるようにした周到な戦略として行われている。
 スローフードは、「ゆっくり食べよう」とか、「郷土料理を楽しもう」といっいた意味ではない。食文化を観光と特産化に結びつけた、れっきとした食のプロモーション事業なのである。そのために州政府が資金を提供し、多くの企業スポンサーもついている。また中山間地の農家で環境を配慮して農業を営む農家には、環境直接支払いという補助金があり、小さな農家を保護するという国の政策も背景にある。

 ギリシャ観光省の今回の戦略も、もちろんイタリアのような食文化の観光事業を意識してのことなのだろう。ソフィアさんによると、ギリシャでは、他のEU諸国のような直接支払いのほか、組合での組織化などを支援しているのだという。今回の催しから、食文化としての料理や食材の売り込み、さらに観光振興へと、総合的にアプローチしていくという方針が明確に見てとれた。
 日本でも、各地で食のブランド化や、海外への食材の輸出が盛んに言われているが、果たしてイタリアやギリシャのように、国家的な戦略としての食文化のアプローチが、総合的な視点で考えられているのだろうか。
 三國シェフから「ギリシャに取材に行こう。そうすれば日本にも観光事業などの振興で刺激になる。またギリシャの奥深さも理解できる」と、提案があった。ぜひギリシャに行き、地域づくりなどを考えるヒントにしたいものだ。(平成19年5月13日)