フード最前線
(熊本日日新聞で連載)
    「食」を学ぶには現場が一番    (2007-06-10)
自分たちで作ったピザを試食する学生たち

 四月から大妻女子大学家政学部ライフデザイン学科の講師をしている。家政学部というと、かつては料理と裁縫というイメージだが、今は、ライフスタイルの多様化から、環境から消費生活など、生活に関わるあらゆることを学ぶということになって、三年前から同学科が新設されたという。僕の担当は「食と社会」。希望の受講も可能で百二十人もの参加がある。

 講義では、できるだけ各地の新しい農業の試みや食育などを、パワーポイントやビデオを使って、現場のことを具体的に伝えるようにしている。幸いこの二年間で全国二百ヶ所に行ったので、現場の写真もたくさん撮っている。学生はとても食や環境のことに関心が高く、熱心に聴いてくれる。彼女たちに、地方のアクティブな活動をつなげれば、確実に地方への関心を深め、訪ねてくれるに違いないと確信をもった。
 それでも、講義だけでは食の安心や新しい農業の試みも実感がつかみにくい。そこで、をすることになったが、学校の授業だけではつまらない。そこで、気分転換をかねて、東京の八王子の牧場「磯沼ミルクファーム」に連れ出して料理会を行った。牧場主の磯沼正徳さんとは十二年の付き合い。毎年、料理会をしている。
 牧場は、ブラウンスイス、ジャージー、ホルスタインと三種類の牛を飼育している。三種類の牛のミルクの違いをティスティングして、味わってもらった。牛のミルクが実は種類によって味や成分が違うこと、それによってヨーロッパのチーズの多様性があることなどを知ってもらうためである。

 一方日本は99・9パーセントがホルスタイン。大型でミルクも肉も効率よく採れる。さらに効率化をはかるために、餌代を安くしようと生み出されたのが、牛を解体した後の要らなくなった内臓や骨を熱して粉砕した肉骨粉。その中に、羊の伝染病(スクレイピー)の死骸が混じり、それが牛に伝播したことがBSEの発端とされる。そんなことも牧場で知ってもらった。
 牧場の料理は実に多彩。自家製小麦(ニシノカオリ)でのピザ。ジャージーなどのミルクやヨーグルト、ローズヒップティー、牧場の天然水のライム入りなどが並ぶドリンクコーナー。ヨーグルトベースのソースをかけた夏野菜サラダ。フローズンヨーグルトとクレメダンジュを合わせたデザートなど。それらをみんなで作ってもらった。庭にある溶岩釜では、好きな具材をトッピングしたオリジナルのピザをで焼く。参加型講座(ワークショップ)だ。
 食事の後に、乳搾り体験、子牛とのふれあいも楽しんでもらった。「こんな授業が毎回あるといい」「東京に牧場があるなんてびっくり」「心が癒される」「ミルクが牛によって味が違うなんて初めて知った」と学生たちには大好評だった。
「食」を知ってもらうには、やはり現場が一番のようだ。(平成19年6月10日)