フード最前線
(熊本日日新聞で連載)
    観光と「食」結び付けたギリシャ    (2007-07-08)
伝統的なギリシャ料理を食べながら、ステージで繰り広げられる歌や踊りを楽しむ参加者たち

 先月、ギリシャのクレタ島で行われた「インターナショナル・ケラズマ・会議」に招かれた。ケラズマとは、ギリシャの言葉で「もてなしの料理」という意味。ギリシャ政府観光局と貿易局の主催で行われたもので、世界十五カ国の百五十人のジャーナリスト、バイヤー、シェフなどが参加した。ギリシャの歴史的背景や伝統の素材、新しい創作の料理までが披露された。観光PRとともに、食材と料理も世界に打ち出して売っていこうというプロモーション事業である。
 三年前から始まった食文化(ガストロノミー)事業は、ローカルなものをインターナショナルにというスローガンのもとに行われているという。ギリシャの食材には、オリーブオイル、ハニー、ナッツ、サフラン、ハーブ、羊肉、魚、ワインなどがある。しかもオールカラーで、大判の豪華な料理ブックまでが用意してあった。
 ギリシャは農業がもともと盛んだったところ。小さな農家や加工品の流通を政府がサポートし、地域経済の振興に結びつくように取り組にでいるという。そして実際に輸出は伸びているという。
 クレタ島で私たち用意されたのは、リゾート地のプ−ル付のゆったりとしたクレタ・マリス・ホテル。目の前には海が広がっている。部屋は、コテージタイプで、快適なところだった。この隣のテラ・マリス・ホテルが会議会場。会議では、学者によるギリシャのバランスの取れた料理の健康性の学術的な裏づけの話から、シェフたちによる新しい料理の提案などがあった。その後にワークショップが開かれ、ワイン、オリーブオイル、魚、チーズなどを専門家を交えてティスティングをした。もちろん商品展示とバイヤーのための商談の場も用意されていた。
 圧巻は夕方からの村めぐり。何チームかに分かれて、五軒の一般家庭を訪問し、伝統の手作り料理を実際に味わった。午後九時になると、村の広場に四百近くのテーブルが並び、そこで伝統的な料理でのフルコースが振舞われた。石造りのステージでは、村の歌と踊りが延々と繰り広げられ、私たちも誘われて踊った。これが深夜まで続いた。
 翌日は、ホテルの海の近くのレストランで、各地から呼ばれたシェフたちが、新しいギリシャ料理のパフォーミングを披露。ビュッフェには、厳選された地域素材を使ったさまざまなギリシャ料理が並んだ。もう食べられないと思っていたら、その日の夜、山の上のブドウ畑が広がるワイナリーに誘われて、そこでお別れのコース料理という豪華さだった。
 食と地域の観光を結びつけた演出は、実に素晴らしいものだった。私が回った日本の地方にもこれに負けない素材がある。ギリシャの取り組みは、「食」を通じた地域起こしのヒントになると思う。(平成19年7月8日)