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ユズ加工品で田舎をすてきに演出 (2007-09-02) 農村部の地域作りで、必ず話題となるのが、ユズの加工品で知られる高知県安芸郡馬路村の馬路村農協だ。高知県の山村で山林が96パーセントを占める人口千百人の村だが、ユズの加工品だけで年間三十三億円を売り上げる。 子どもたちにも大人気なのが、ユズとハチミツを入れた飲料水「ごっくん馬路村」で、年間七百五十万本を売る。ユズを使ったポン酢も評判で、この二品目で十億円を超える。私のお気に入りはユズを搾っただけの「しぼり汁」。これでドリンクやドレッシングを作ると最高の味わい。爽やかな酸味と清涼感のある香りが、食欲をそそる。 同村の仕掛け人がいる。村の中心的な存在で、ユズの加工品をこつこつ売って大きく育ててきた代表理事組合長の東谷望史さん。それに、村の商品やカタログや戦略を企画したデザイナーの松崎了三さん。私は、このお二人と以前からの知りあいだが、実は、同村に行ったことがなかった。家族で同村に行きたいと妻に言われて、突然の四国旅行となった。 松崎さんに電話をすると「むちゃやわ。夏は宿が取れんでえ。まあ聞いてみるがな」との話。その後、東谷さんから連絡があり、馬路温泉が一部屋取れたということで、早速出かけることとなった。後で知ったのだが、ユズの加工品が全国に知れ渡り、同村を訪れる人が増え、なんと年間六万人になったという。特に夏は、山や川や温泉でくつろぎたいと、同村の宿は満員だったのだ。 妻の家族の住む大阪からレンタカーで、神戸経由で淡路島を抜け、四国の海沿いを行き、室戸岬を巡って、安田町から県道安田東洋線に入り、山の方に向かう。くねくねとした川沿いの細い道で、これが約二十キロ。三十分で同村に着いた。大阪から八時間かかった。 同村は、山々に囲まれ、緑もたっぷり。山風が爽やかですがすがしかった。木材をたっぷり使った宿では、松崎さんが釣って置いていったという鮎での寿司、刺身、焼き物、サラダなどのもてなし料理が用意してあった。もちろん柚子が振りかけてある。渓流にせりだしたベランダでの夕餉は最高のものとなった。高校生の長男が「こんなにおいしい食事は久しぶり」と絶賛したほどだ。 翌朝、東谷さんの案内で、昨年できたばかりというユズの加工場を案内してもらった。営林署跡地を使った加工場の入り口には、五十年前もの建造物を改装して作った事務所、直売所、パン工房などがある。 加工場は馬路の木材が床から天井までふんだんに使われ、採光もよく、広々として、実に落ち着いていておしゃれだ。馬路村の加工品の素晴らしさは、田舎をすてきに演出していることに尽きるだろう。地域づくりのヒントは、そのあたりにありそうだ。(平成19年9月2日) Copyright © 2006-2024 Hiromi Kanamaru All Rights Reserved.
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