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食と農のテーマパーク (2007-10-28) 三重県伊賀市に食と農をテーマにした公園「伊賀の里 モクモク手づくりファーム」がある。大阪から車で二時間ほど。滋賀県との県境近くの山村にある。 園内には、ハムやソーセージ、和菓子、パン、豆腐、パスタなどの工房のほか、レストラン、体験教室などがある。近隣の農家百軒が野菜を売るファーマーズマーケットもある。温泉や宿泊施設もあり、家族づれなど多くの人がやってくる。年間の入場者は五十万人で、売り上げは三十八億円という。 同ファームは一九八三(昭和五十八)年、一六戸の養豚農家が出資して生まれた。生産だけでは輸入豚には対抗できない。そこで高付加価値の製品を作ろうとハム、ソーセージを手がけた。ところが知名度がなく、最初のころは赤字続き。そんな時、、PTAのお母さんから「ウィンナの作りができませんか?」と尋ねられ、体験教室を開いたらこれが大ヒット。山の中の何もなかった場所に、親子が続々とやってくるようになった。 さらに、お母さんたちから、食事ができるところがほしいという要望もあって、レストランを作った。ほかにも、親子が楽しめるパン作りや、豚の競争、田んぼの生き物観察など、さまざまなイベントを行ううちに、とうとう食をテーマにしたファームが生まれたというわけである。体験とおいしいものがそろっていることで、昨年は小中学五百校の児童・生徒が、修学旅行で訪れたという。 おしゃれで、楽しい雰囲気に包まれているとあって、全国から就職したいという若い人たちの問い合わせも多い。昨年だけで、なんと三百人もの就職希望者があったという。 ところで同ファームが最近手がけたユニークな事業がある。団塊世代向けの「農学舎」。週末に農地を使って野菜作りを学び、くつろいでもらおうというもの。郊外の農地を整地し、八メートル四方の畑を貸し出し、野菜作りを指導する。会費は年間十五万円。全百五十区画があり、現在、三十六組の夫婦や家族が参加している。 団塊世代で、いなか暮らしや野菜づくりをしたいという希望者は多い。しかし、素人がいきなり野菜作りや農業は難しい。そこで、プロの指導で気軽に週末の野菜作り楽しんでもらおうという趣旨だ。畑のそばには、農機具や、キッチンやシャワー室をそなえた木造のサロンも設けてある。 このカルチャーセンター方式の野菜づくりは、すでに東京の三十七戸の農家が手がけた先例があり、好評を博している。土地は三十平方メートルで年間四万三千円。三千七百名が参加するほどの大人気だ。都も、農業の支援や、緑化、都民の憩いやコミュニケーションになると、農家のカルチャーセンターを支援している。 同ファームの試みは、新しい農業のあり方の地方版である。いなか暮らしや、食の安全を求める現代社会。プロが野菜作りを教えるという方式は、今後増えていくに違いない。(平成19年10月28日) Copyright © 2006-2024 Hiromi Kanamaru All Rights Reserved.
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