書評
    本と話題    (しんぶん赤旗 2008年4月27日掲載)

読書 地域の力 食・農・まちづくり 大江正章 (著) 岩波新書

「夏は朝早くから採ってくるし、家で食べる野菜も作っとるけん畑仕事も忙しい。元気なのは、仕事があるけんですよ。悪いところがないから、診療所にはめったに行きよらん」
 徳島県上勝町の八四歳のツネコさんの言葉だ。上勝町は人口約二千人の山間地。料理の飾りの「ツマ(木の葉)」の販売で一躍有名になったところだ。高齢化率48%。でも寝たきりは二人しかいないという。
 上勝町の事例は、高齢でも元気でいられる本当に必要なことは、地域のコミュニケーションや生きがいや、高齢でもできる仕事が暮らしにあることだ、ということを教えてくれる。
 人口千二百万人の東京では練馬区の農家を中心に日本でも初めてのカルチャーセンター方式の体験農園が誕生した。区民が自ら野菜作りをプロに教わり習う。そこから区民のコミュニケーションが生まれた。野菜づくりを習い田舎暮らしを始めた人までが誕生する。
 高知県梼原町は人口四千六百人、山林91%。ここの森林組合は環境に配慮した森作りの国際的な認証を受ける取り組みをした。さらに施主や工務店のファン作りを行うことで、輸入木材に押されてきた林業に光をあてた。
 富山県富山市では、路面電車を公共交通機関として前面に押し出した街づくりを行い、CO2の削減、人の行き交う暮らしやすい町を出現させた。
 地域が活力を生み出した各地の具体事例が紹介される。共通しているのは、地域主体とした循環型の経済の創造と、ものまねでないパーソナルな地域づくりである。地域にあったものをもう一度見直し、再構築をしてマネジメントする視点だ。高度成長期からバブルにかけて経済と効率化で見失った足元の宝が再検証され、地域に根ざしたライフデザインが人の暮らしにいかに大切か教えてくれる。そこにこそ今後の日本の魅力ある未来がある。