書評
    食べかた上手だった日本人    (共同通信社 2008年12月4日配信)

「食べかた上手だった日本人」 魚柄仁之助(著) 岩波書店

 昭和十(一九三五)年前後の婦人雑誌やラジオの料理番組で使われた料理の作り方を検証し、そこから現在の食卓と食事情を考察し照射するという、実に手の込んだ食文化論。図版も多くわかりやすい。しかも七十年前の料理をことごとく再現し、実際に作り食べたものがメーンになっているから、きわめて説得性がある。
 明治、大正からこの時代、料理は一気に豊かになり、女性のなかに広がり始める。バターや調味料、洋食などが雑誌に取り上げられる。今やあたりまえになった雑誌での料理紹介やレシピの公開は、昭和初期に、そのほとんどの基礎ができていたことがわかる。
 そして料理を広げた要因として、日清、日露戦争を経て海外からの多くの食材、料理法がもたらされたことや、さらに関東大震災以降、都市にガス設備が広がり調理をしやすくなったことを挙げている。戦争と災害が料理を広げたという観点はとても新鮮な印象をうけた。
 なかでも真骨頂は、実際の料理を通しての現在の食生活の比較だろう。昭和十四(一九三九)年当時の自給率は86%もある。著者は現在のカロリーベース自給率40%とは単純に比較はできないと、一応断りを入れているが、それでも著者が料理を通しての推論は、当時の食生活をなぞれば、現在でも自給はまかなえるのではないかというものだ。
というのも肉類や魚類が少なく、米を中心に野菜類を豊富に使っている。また当時冷蔵庫が普及していなかったことから、野菜や肉を干す、魚を塩蔵するなどを含め保存方法がさまざまに試みられ食され、食材を無駄なく食べきる工夫に満ちている。
 さらに秀逸なのは、健康食の視点である。脂分が少なく米中心で野菜類の多い食生活は、肥満対策には最善ではないかと投げかける。現在、日本では食育基本法ができ、偏った食生活からの生活習慣病の対策のために、食のバランスガイドの普及につとめているのだが、それよりも昭和初期の食生活を再考してこそ理想の姿が見つかるのでは、と思わされた。
(岩波書店・一、八九〇円)