書評
    生活が困難化する山村復活の道    (しんぶん赤旗 2009年2月22日掲載)

生活が困難化する山村復活の道
「限界集落と地域再生」 大野晃 (著) (高知新聞社・1600円)

おおの・あきら 一九四〇年生まれ。長野大学教授。

 「限界集落」とは「65歳以上の高齢者が集落人口の半数を超え(中略)共同生活の維持が困難な状態」を言う。
この名称は著者の二十年以上もの各地のフィールド調査から、日本の将来の危機を警鐘するために生まれたものと初めて知った。
 山村では山林が輸入木材に押され需要が奪われ若い人が外に働きに出、残された人が高齢化し、次第に生活困難な環境に追い込まれる。
 これは山村だけの現象ではない。中心市街地は道路が拡幅され大型店が郊外に誘致され商店街は雇用が奪われ高齢化し空洞化する。東京都の高度成長期に建った団地では地方から働きに出てきた人たちが高齢化し団地自体が維持できなくなっている。都市部と山村で「限界集落」は同時進行的に広がっているのだ。
 背景には高度経済成長以降の経済優先の政策のなかで、急速な都市化と工業化、近代化と合理化が進み、農村から人が都市に急速に流れ込む。さらにグローバリゼーションで工業製品の輸出と引き換えに木材や農産物の輸入が拡大し地方の第一次産業を疲弊させる。地域のかつての経済システムが崩れて都市と農村の極端な人口の差と経済格差が生まれる。それが長年にわたって培われてきた地域の人の営みを引き裂き「限界集落」が次第に浮き上がってきたことだということがわかる。
 巻末の全都道府県自治体の格差分析表は圧巻。近い将来人口の少ないところはさらに減少し、あるいは消滅し、都市部と農村の格差が広がることを示唆している。 再生は容易ではない。国の対策はもちろん住民も政策に参加しなければ地域は動かない。著者が強く訴えるのは山村の復活と環境保全は、ふもとの川や海や水を守ることであり、今後の持続ある社会に不可欠であるという点だ。