映画評
    「ヤング@ハート」「マルタのやさしい刺繍    (しんぶん赤旗 2008年10月16日掲載)

長生きの秘けつは生きがい
映画「ヤング@ハート」「マルタのやさしい刺繍」が語りかけるもの
夢や仕事を生みだす大切さ

 人は目的や生きがいがあれば、どんな歳をとっても元気に暮らしていくことができる。人が生きるうえで、なにが大切かを、二つの映画は語りかけてくれる。
                ☆
『ヤング@ハート』は、アメリカのマサチューセッツ州に実際にある年金生活者のロック・コーラス・グループがコンサートに出演するまでのドキュメンタリー。平均年齢八十歳というメンバーが歌うのはジェームス・ブラウン、ボブ・ディラン、ジミ・ヘンドリックスといったロックミュージック。生きることの意味、人生の可能性など、歌詞にこめられた、当時のロック歌手の思いは、実際に人生を重ねたメンバーが歌うとき、そこに歌以上のドラマとなって現れる。
 ロックとは縁がなかったメンバーは、ゼロからリハーサルを経てコンサートに向けて練習を重ねていく。そのなかには病気を経て復帰する者、あるいは亡くなる人もいて、しかし、みんなは次の出会いを求めて、歌という目的に夢を見出すのだ。
 ドキュメンタリーなのにファンタジックなミュージカルのように見えるのは、ところどころに挿入される衣装をつけてのテーマにそったコーラスによる演出が大きい。それとなにより、ひとつの目的に向かって夢を失わないという明確な方向があるからだ。
                 ☆
『マルタのやさしい刺繍』はスイスの山村で夫をなくした八十歳になるマルタが、女性の仲間たちに励まされ、結婚前に夢見ていた刺繍のランジェリーショップを出すまでの物語。こちらはフィクションなのに実際の話ではないかとおもうほどリアリティにあふれて力強い。というのも主人公たちを年齢を経た女優が演じ、彼女らの存在そのものが、ドラマに厚みとリアルさを感じさせるからだろう。
 山村で偏見にあいながらも女性が夢を実現するというのは、実は日本にもある。徳島県上勝町では、80歳の女性たちが、料理のつまになる葉を、季節ごとに市場に送り出し、経済的に大成功を収めている。映画は上勝町のドラマとそっくり。介護や福祉や病院はもちろんだが、夢や仕事を生み出すことは、もっとも重要なことなのだと教えてくれる。
                 ☆
 かつて百歳のインタビューのプロジェクトを手がけたことがある。そのとき得た長生きの秘訣とは、歳をとっても目的、生きがい、ささやかでも仕事があること。そしてコミュニケーションだったのだ。映画は人にとって生きるということはなにかという意味を伝えてくれる。