第5回 千葉で里山体験 充実した内容にびっくり
谷津田でまだ残っている昔ながらの田んぼと水路=荒尾稔さん提供
「日本雁を保護する会」のメンバーで、「里山シンポジウム実行委員会」のコーディネーター、荒尾稔さんに誘われて、千葉市大和田に出掛けた。JRの千葉駅でバスに乗り換え、終点の中野操車場駅へ。そこから徒歩で10分ほど行くと、昔ながらの土の畦でできた田んぼが現れた。周辺に小川が流れている。そこだけが、まるでタイムスリップしたように、30年も前の里山の風景がぽっかりと残している。ここで多くの人たちが里山保全の活動をしているというのである。
実は千葉県は2003年5月に「里山条例」を施行した。里山の保全や再生や活用を目指したものである。里山とは人が暮らしのなかで必要なように手を入れた所で、田んぼや畑を作り、薪をとり、木材を切り出し、山菜や魚などを採って、生活を営むための場である。ところが、戦後40年の間に、里山は人の生活から離れていき、農家の高齢化や、宅地化でだんだんとなくなった。あっても手をいれないために田んぼや畑が放棄されたり、山に竹林や雑木が増殖したり荒廃したり、ゴミの不当投棄が相次いだりしている。これは全国的なことだ。
千葉県では、里山を地域のものとして見直し活用し、もう一度きちんと根付かせようと、学校から市民団体までに呼びかけ、それでお互いに知恵を交換し、自ら活動を起こしていこうという全県での取り組みが始まった。昨年2004年のシンポに参加したのだが、各地の具体例や研究などが多面的に紹介され、行政や市民団体や農業など活用の方法など、さまざまな視点からの広範な取り組みが報告されて感心したのだが、今年の「里山シンポジウム実行委員会」には、なんと110の民間団体が参加しているという。
「下大和田5月の谷津田観察会とごみ拾い『谷津田はビオトープ』」の参加者=荒尾稔さん提供
里山シンポジウムは、今年は5月21日に、我孫子市の中央学院大学で、それぞれの団体の観察や実践、研究の成果が持ち寄られ、「里山と水田稲作」「里山と教育・学習」「里山と森林・林業」「里山と食」「里山と政策」「里山と観光」「里山と文化・伝統」など14分科会で行われれる。このシンポまでに、現場で実施される体験イベントは、4月8日から5月15日まで、なんと51箇所もあるのである。そうしてこのシンポは、一般の人たちが中心になって運営されている。僕が連れて行ってもらったのは、里山シンポジウムのイベントの一つとして位置づけれた「下大和田5月の谷津田観察会とごみ拾い『谷津田はビオトープ』」だった。
下大和田の場所は周りに比べて谷状になっていることから「谷津田(やつだ)」と呼ばれるのだそうだが、千葉県内には63箇所もあるという。もう5年も前からこの地域で田んぼの生き物調査をしているのは、千葉県立犢橋高等学校の教諭で生物担当の田中正彦さん。「子供の頃から魚が好きだったんです。田んぼには生き物がたくさんいるということがわかって、好きな仲間と観察会を始めたのです。毎月、第一日曜日に観察会を開いているんです。今回は里山シンポジウムとドッキングをして、他の団体と合同で行っているんです。やっと県も、谷津田の大切さに気づいたということですね」
田中さんと大和田の田んぼで稲を作っているのは、もと主婦で現在は市議でもあるNPO法人ちば環境情報センター代表の小西由希子さん。センターでは、千葉県内の里山に関わる団体の取り組みを情報発信するとともに具体的な実践活動も行っている。
「田植え、草取り、カエルのジャンプ大会、案山子作り、稲刈り、クラフトなど、これまで60回以上行っています。田んぼは100坪ほど。古代米やコシヒカリを栽培しています。環境の素晴らしさを子供たちに伝えたいのです。実はこのあたりは大きな鉄道会社の持ち物なのです。でも開発が止まっている。そこで、この環境を守り生かして、観察会をしたいということで、使わせてもらっているんです」という。
また、田んぼの近くの山林も観察に使えるようにした。「山林には地権者がいます。それまでだと他の人が入ることはできなかった。でも県の条例ができたことで、県が仲立ちになって、私たちの民間団体も地権者も安心して入って使えるようになったのです。少しですが活動のための半額の補助金も出ています。年間30万円ほど。ただし、これは具体的な活動として、事業として行わなければもらうことはできません。つまり30万円なら60万円の事業になることが必要なわけですね」と、小西さん。
田んぼの周りには、さまざまな野草が咲いていて、大人や高校生や子供たちが、それぞれのリーダーの案内で草花や田んぼを観察している。周辺のアザミ、菖蒲、オオバコ、タラの芽、藤などの野草や、タモロコ、オタマジャクシ、メダカ、ザリガニなど田んぼや水辺の生き物たちを、みんなが調べたり報告したりしている。花の観察を熱心にしいる人たちのグループでは、資料として、この時期に見られる野草のカラー写真入りの印刷物も配布されていて、紹介されている野草は94種類にもなる。毎回、観察の時期にごとに分類して、データがだされるというのだから驚きだ。小さな子供たちのなかには田んぼの泥んこ遊びをしている子もいる。総勢の参加者は80名ほど。
茂原農業高校の渡邉英二先生の「農業土木課でのクラブ活動」=荒尾稔さん提供
茂原農業高校の渡邉英二先生は、6名の生徒を連れての参加で、2004年の夏から、毎週一回田んぼの調査をしているという。「農業土木課でのクラブ活動です。クラブ活動だけど、授業の延長みたいなものでもあって、より専門性を高める目的で行っているんです」という。生き物調査は、田んぼの泥をすくい、それを網に入れて水で泥を落としてから、白いボードに入れて、生息するユスリカ、イトミミズ、ミジンコなどの数を調べるのである。じつは、農薬や化学肥料を使わない田んぼは、さまざまな生態の循環があり、それらの関係がうまくつながって、田んぼの環境が守られているのである。そんなことを生き物調査で学ぶのである。
一通りの観察が終わると野原に集まって、みんな持ち寄りでのお弁当。野菜たっぷりのお味噌汁が、火を使って、その場で作られ、みんなに配られた。午後は、小さな子供たちを中心としたゲーム大会が行われ、みんなで楽しんだ。
このシンポジウム自体が素晴らしいのが、これまで千葉県内で取り組まれてきているさまざまな学校やボランティアやNPOなどの実践の活動を紹介し、一連の動きとして捉えているとことで、それまで点であったさまざまな動きを結びつけたということだろう。新しい動きとして大きな注目をしたい。こういった活動が、これからの地域のあり方を大きく変えていくに違いない。
里山シンポジウム実行委員会 http://www.jgoose.jp/satochiba/
ちば環境情報センター http://www.ceic.info/
ちば・谷津田フォーラム http://yatsuda.2.pro.tok2.com/
2005年5月12日
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