第18回 農家を軸にプロの料理人と子どもたちが交流
農家にホテルの料理家たちがやってきて、子どもたちに料理を伝え、一緒に食事をする。そんな素敵な催しを8月6日の土曜日に開いたのは、埼玉県さいたま市緑区上野田の「ファーム・イン さぎ山」の萩原さとみさん一家と、その仲間たちだ。このファームの素晴らしいところは、都心の近くでありながら、木々も残してあり、真夏にもかかわらず、清涼感があり、空気がよくて、とてもくつろげるという空間であることだ。
「ファーム・イン さぎ山」は、一区画30平方メートル、42画の一般参加ができる畑があり、多くの家族が、畠で農作物を育てている。ここで昨年、大人気だったのが、ホテルのスタッフに来てもらっての野外料理教室。好評だったことから今年も行われることとなったのだが、参加者はなんと160名に。
「これまで、ここで採れた野菜を使って料理をしていたんですが、かあちゃんの料理にも限界がある。それで『ホテルのシェフが来てくれて料理をしてくれないかしら』という話になって、たまたまシンポジウムで一緒になったホテルブりランテ武蔵野の料理長に相談したら『いいですよ』って、一つ返事で引き受けてくださったんです」と主催者の萩原さん。
ホテルブりランテ武蔵野のメンバーは、総料理長を含めて10名のスタッフ。「ホテルそのものが地域に根ざした存在なわけですから、地域還元をしたいという思いから参加しました。地域に貢献して認知され、それでホテルを利用してもらう。最終的には、ホテルにも還ってくると思うんです。萩原さん自身が有名人だから、そんな方と一緒にできるということは、名誉なことでもある。それにスタッフも、ふだんのフィールドと異なる場での体験は貴重だと思うんです」と料理長の山田清人さん。
「ディキャンプ」と名づけられたプログラムは、午後3時半から同8時まで、盛りだくさん。前半は、子どもたちが自ら収穫をした農作物を使っての料理体験教室。後半が、公開の料理教室と食事会である。ファーム内で臨時の受付が設けられ、受付が始まった。会費は1200円。お金と交換に、当日の食べ物のカラーの可愛らしい4枚つづりの食券と、レシピが配布された。この日のために手作りしたのだという。
まずはブルベリー摘み。これをボランティアスタッフのお母さんたちが、ソースにする。それからトウモロコシもぎ。茹でて食べるものだ。収穫体験が終わったら、子どもたちは、白玉粉と豆腐を材料に白玉団子を作り、それをブルーベリーソースで食べるのである。それから用意された竹を使い、これにパン生地をこねて巻きつけ、焼いて竹パンを作るのだ。みんな一所懸命で楽しそう。
前段の体験コースを終えて、午後5時から料理教室が始まった。しゃれた白いテントが張られている。この日に早めにきたホテルのスタッフが設営したものだ。テントの前で、出す料理を公開で紹介し、食べてもらうという趣向だ。ただし160名もの料理は当日では作れない。それで前日に営業終了後に仕込んで、専用の運搬車で会場に当日運んできたのだという。しっかり準備がしてある。
和牛のほほ肉をワインで野菜とともに煮込んだ「ブッフ・ブルギニヨンとグリーンピースのフランセーズ添え」。グリンピースやベーコン、タマネギなどを煮込んだ「プティ・ポワ・フランセーズ」。トマト、赤ピーマン、セロリなどで、スープ状にした「ガスパチョ・アンダルシア風」。ジャガイモ、インゲン、アンチョビなどを使った「ニース風サラダ」。卵白を泡立てて作るお菓子「イル・フロタント(淡雪卵)のサングレーズソース」である。
料理長の山田さんは、料理を解説し、やさしく手際よく調理を進めていく。ほほ肉は筋が多くて、そのままだと食べにくいが、煮込むとゼラチン質が多くて味わいが豊かだとか、卵白を使ったお菓子は簡単な素材だけど、その創意に満ちた作り方には、フランスで感動したとか、そんな話を交えながら、次々と料理を作っていく。料理のテーブルには、みんな釘付け。「すげえ」「うまそー」「早く食べたいよう」「いいにおい」とか、子どもたちから声がでる。卵白を泡立てる技術には、みんなから拍手が起こったほどだ。プロの技は、子どもたちを、完全に魅了したようだ。
料理が一段落をして、それぞれの家族や仲間がファーム内にシートを敷き、まずは、自ら収穫したり料理した白玉粉や竹パン、それに特製の甘酒などをいただく。それを食べ終わったころに、テントでの準備が整って、本日の特選の料理が、順番に出された。味わいも豊かで、おいしいとあって、どの家族からも「おいしい」「楽しい」と、とても評価が高い。
それにしても、プロの料理人と農家の人がコラボレーションをするというのは、なかなか機会が少ないと思うのだが、それを実現させたというのは、とても面白い試みだ。なにより、子どもたちの目の輝きが違ったのと、進行役の萩原さん自身が楽しそうで、始終ニコニコと笑顔が絶えないのが、素晴らしい。
「食育というのは、子どもたちに種や収穫から料理まで伝えていくことだと思います。それに、地域の食の文化を伝えるのも、私たちの役割だと思うんです」と、萩原さん。実に楽しい一日であった。(ライター、金丸弘美)
2005年8月11日
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