第21回 取れたての魚が並ぶ寿司屋 福岡「鮨屋台」
目の前のちょうど目線あたりに海が広がるカウンター席
今、もっとも気になっている食の発信地が、福岡県遠賀郡岡垣にある「グラノ24K」である。グラノはぶどうのことで、24Kとは、「金のように輝く葡萄になるようにと名づけました」とは、代表の子役丸秀一さん。ぶどう果樹園を使った結婚式場「ゆかいな果樹園」やレストラン「ぶどうの樹」をはじめ旅館などを展開している。
岡垣は、小倉と博多のちょうど中間くらい。玄界灘に面している。ぶどう畑を結婚式場にしたという発想の素晴らしさもさることながら、味も着眼点も抜群で驚いたのが、玄界灘に面したコンテナを使った寿司屋の「鮨屋台」である。
4つのコンテナをつないでの寿司店は、カウンターの後ろがガラス張りになっていて、目の前に海が広がる。しかも目の前の漁港の取れたての魚が、そのまま運ばれて寿司として握られるのである。新鮮で、地元の四季の魚を使うから、実に味わい豊かでうまいのである。
店にはメニューがない。コースは2つのみ。寿司のみの2500円「海のおまかせ」とおつまみつきの「ちょっとつまんで」の3500円。実は、メニューがないのは、漁師さんが捕ったその日の魚を使うからで、ネタが店の都合、客の都合で揃わないからである。しかし、それを逆手にとって、「海のおまかせ」という形にし、ネタは選べないが、最上の魚を握ってくれる。そうしてカウンターから海が見えることで、板前さんが、地元のネタから漁師さんのことから、海の状況まで語れるという店作りになっているのである。
この日いただいたのは、「ちょっとつまんで」のコース。おつまみに出たのは、スズキ、サザエ、ヤリイカ、アカウニ、カマス。どれもが、鮮度よく、素材そのものうまみがじんわりと口に広がる。お寿司は、ヒラメ、メッキ(ヒラアジ)、ヤリイカ、アワビ、イカ塩辛、ケンタロウ(ヒメジ)、ウニ、タコとカンパチ、イサキのあぶり、カボチャの浅漬け、タマゴである。
お寿司のネタは小ぶりで、シャリとの調和がほどよく上品。それも出し方に一工夫あって、ヒラメには、細い糸状のオキュウトが少し載って、ユズ胡椒がちょいと置いてある。ヤリイカは、細長い海苔をシャリとの間に挟んである。イサキは、バーナーであぶってうまみを引き出すといった具合。若いカボチャの浅漬けのパリッとした爽やかさのある漬物の握りもあって、じつに演出がよくて、素材の持ち味を生かしつつ、しかも、抜群にうまいときている。海をみながらの寿司という雰囲気も落ち着くし、気持ちがいい。
カウンターが24席。お隣にカフェ&バーがあり、こちらは10席。もう一つ、「海の栖(すみか)」という個室があって、こちらは5名からの予約で12名まで。会席の間に寿司が8〜9カン出るもので5500円。板前さん4名とホールスタッフ5名で運営。11:30〜15:00と17:30〜20:00まで。水曜日が定休である。
「鮨屋台」が生まれたのは2002年。地元の目の前の漁師さんと連携した寿司店ができないかということから、カウンター10席のコンテナの一個の寿司店から始まった。最初はなかなかうまくいかなったという。というのも、まずネタがこちらの都合で揃わない。漁師さんと連携するとなると、漁師さんが船で着く時間が、店の仕入れする都合の時間とは限らない。ネタも、いろんな雑魚もある。
地元の魚を生かした寿司は研究と試食を繰り返して生まれた
「1年間、漁師さんのところに通ってコミュニケーションをとりながら、小さな魚や、数が揃わない雑魚まで、寿司ネタとして使えるか、みんなで研究しました。漁師さんは、待つということが嫌いみたいで、魚を港にあげたら、そこにすぐ我々がいて欲しいみたいですね。ですから今は携帯で、漁師さんが船から電話がある。『今から港に着くぞ』とね。だいたい10時半頃が仕入れで、10隻の船の方と取引してます。隣町の漁師さんからも一部仕入れています」とは、料理長の鶴田哲二さん。
つまり地域の漁師さんと魚の都合でメニューだてが行われ、寿司の出し方を工夫をすることで、満足度の高い、うまい寿司が生まれ、かつ直接取引きをすることで、リーズナブルな最上の寿司が提供できるというわけなのだ。
そうしてコンテナ一つで始まった、地域の漁師さんと組んだ寿司店は大人気となり、カウンター10席で、月の売上げ500万円。予約で満員になり、3時間待ちということも珍しくなくなった。お客さんに申し訳ないと、2005年7月リニューあるしたばかり。「コンテナは、そのままで、内装に木をふんだんに使い、外観とのギャップも楽しんでもらおうという作りにしました」と、子役丸さん。いや、実に楽しくて味わい豊かな寿司店なのである。
ぶどうの樹 http://www.budounoki.co.jp/
2005年9月1日
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