第24回 オーガニックをプロモーション イタリア有機農業協会
イタリアでも発売されたばかりというパスタのデモストレーション
イタリア有機農業協会(AIAB)による、イタリア有機農業の食材の試飲と試食会があるので来ませんかという案内を、機関紙「スローフード」の編集長、伊東史子さんからいただいた。「スローフード」は、イタリア・スローフード協会が発行する全世界の会員向けの食文化の雑誌である。イタリア版は「スロー」というタイトル。伊東さんは日本版を手がけている。
伊東さんによると「イタリア有機農業協会(AIAB)は、国内でもっとも歴史が古く、唯一、消費者と生産者、製造業者からなる組織です。有機農業作物や加工食品について、品質や倫理基準の管理と指導を主に活動を行っています」という。
会場は、築地の聖路加病院隣りにある東京新阪急ホテル築地である。実は、この催しには、前回も参加している。すぐれたイタリアのワイン、チーズ、ジャム、野菜のオイル漬け、オリーブオイルなどが紹介されるのである。どれもひとつひとつが味わいがあって、素材そのものが素朴だが、しっかりした個性をもっている。用意されたパンフレットをみても、生産や加工の工程、味わいまでがこまかく丁寧に書かれていて、どれもが際立ったものだというのがよく理解できるようにもなっていた。
イタリア有機農業協会<品質保証部門>会長・イニャツィオ・チロニスさんは「EUのオーガニック基準をクリアしたもの、さらにイタリアの基準の認証を受けたものをそろえました。その質と味をみてもらいたい」とあいさつ。彼自身が、サルデーニャ島の出身で、23年前からオーガニックの製品つくりに携わっているのだそうだ。
続けて「私たちの団体とこの催しは有機農業、オーガニック、農業を発展させる試みです。有機農業は、化学肥料はもちろん、遺伝子組み換えのものは一切使われていません。なぜ、イタリアでは、オーガニックが盛んなのか? イタリアには、自然の素材を大切にするクオリティの高い精神をもっていて提供できる生産者の力があるのです」と語った。
僕が興味をもったのは、AIABという協会が、イタリアの食材のプロモーションをしているということだった。AIABはイタリア農業省公認の非営利団体で、1988年に発足。生産者、加工業者、消費者からなる団体だそうで、なんと会員は1万3000名にもなるという。その数に驚いた。日本の有機農業農家の数よりははるかに多い。イニャツィオ・チロニスさんによれば「有機農業に取り組んでいる農家は、イタリアでは4〜5万人。耕地面積にして100万ヘクタールを超えます」とのことだった。
オーガニックのプロモーションをする協会というのは、日本では聞いたことがない。日本では有機農業団体はあるが、生産が主であって、加工・販売・宣伝までというのは、きわめて弱い。同じ会場にいらしたイタリアの翻訳家・中村浩子さんに尋ねても、「日本では、例がないですね」とうなずいた。彼女は、スローフード協会会長カルロ・ペトリーニ氏の著作「スローフード・バイブル」を翻訳した人である。
スローフード協会自体が、NPOによるイタリアの食製品のプロモーションを行っている団体なのだが、日本では、その組織と活動、運動そのものは、ほとんど理解されていない。そのことも含めて、AIABといいスローフードといい、加工・販売・宣伝・営業に踏み込んでいるのが素晴らしい。
チロニスさんは「オーガニックの農家は小さいところが多く、自分たちで宣伝や販売ができない。そこでAIABが、プロモーションをしているのです。私たちは、イタリア国内はもちろんEU諸国で、こういったワークショップを行っています。今後は、スローフード協会とリンクしたイベント、ワークショップを計画しています。オーガニックの市場は、ヨーロッパでは、大きく広がっています」という。今回の日本での宣伝資金は、EUとイタリア政府が出しているのだそうだ。
もう一人、前回お会いして、ワインをプレゼントしてくれたイタリア有機農業協会日本市場担当の責任者マリオ・セッティ氏にも再会した。「もちろん覚えていますよ」とのことだったのだが、尋ねたかったのは日本の市場性である。セッティ氏は「日本の消費者は、味の違いがわかる人たちがいます。日本市場は、今、健康志向を求めているなと感じています。日本は、かなり重要なマーケットです。でなければ、EUも政府も投資しないでしょう(笑)。ヨーロッパでは、ベルギー、フランス、ドイツ、オランダなどが、関心が高い。その国々と変らぬほど、日本は重要な国。昨年に比べて10パーセント売上げが上がっています」という。
こういった団体がありEUと政府がバックアップし、なおかつスローフードと連携するとなれば、ますます、イタリアの個々の食材や地域性が際立つに違いない。なにせスローフードは、大規模な州政府と連携した大掛かりな食の祭典で、商取引の場「サローネ・デル・グスト」や大学運営までしており、かつワインやチーズを含めた出版まで行っているのである。それにしても、イタリアの取り組みは、大掛かりに動いているなあと思った試食会であった。(ライター、金丸弘美)
2005年9月23日
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