第34回 食の国あきたの郷土料理がいっぱい
「食の国あきた 推進フォーラム 食を通じて秋田を知ろう!」という秋田県主催のイベントに出かけた。秋田ビューホテルで行われた催しは、秋田の各地の郷土料理が満載で、びっくりである。なにせ秋田県8地区の40もの料理がずらりと並んでいたからだ。
秋田に限らず、地方では農家を中心とした食のグループというのがあって、料理の研究会やイベントが盛んに行われている。秋田でも各地にあるのだが、その団体「秋田県農山村漁村生活研究グループ」の各地のメンバーが一堂に会して、その地域の食べ物が登場したのである。なんでも活動は50年になるそうで、「ふるさと秋田の食100選」という立派なカラー刷りの本まで作られていた。
各地区のメンバーが料理を作り展示し、試食ができる。ところが郷土色が強くて、どれも知らない料理ばかり。こんなにあるのというほど、多彩である。それだけ秋田は、まだまだ地域の個性のあるものが残っているのである。例えば、鹿角地区のナッツ。「キャベツや菊、キノコなどを醤油やイカの塩辛、甘酒で味付けしたもの」。あるいは、仙北地区のなると餅。「道明寺粉に餡を入れてなるとの形に入れて蒸したもの」といった具合である。
郷土料理の隣には、同ホテルの石田順総料理長による伝統野菜と地域の肉とを使った新しい料理が披露された。伝統野菜というのは、地域の固有の種から生まれた野菜である。一般に販売されているスーパーの野菜類は、ほとんどが、海外の種を掛け合わせたF1(一代雑種)といわれるもので、大量生産に向くようにしたものである。これに対して、伝統野菜はその地域ならではの固有の野菜である。
展示されていた食材は、しぼり大根、山の芋、とんぶり、じゅんさい、かなかぶ、石橋ごぼう、松倉にんじん、横沢曲がりねぎ、強首はくさい、山内にんじん、八木にんにく、三関せりなどである。料理は、「県産豚肉のロースト オレンジソース 八木にんにくとジャガイモのピューレ」「県産牛肉の鉄板焼き JAこまち東成瀬女性部のおふくろの味 焼肉のたれ」「畑屋うさぎとかなかぶのクリームソース煮」「せせらぎ卵のスペイン風オムレツ 雄勝のトマトケチャップ」「ハタハタフィレのトンブリ入り魚ムース巻 カレー風味の白ワインソース」といった具合。新作の料理は、中華、中国料理もあって、全部で19種類もある。いずれも秋田の素材をうまく組み合わせて、素晴らしい料理になっていて、どれもうまい。
いずれも好評である。いろんな人に感想を聞いたが「知らないものばかりで珍しい」「こんな店が近所にあれば、ぜひ出掛けたい」「どれもがおいしい。地元の素材が、こんなふうになるなんて驚き」といった好意的な意見ばかりであった。実際に地域の食材で、多彩なメニューが登場すれば間違いなく成功するだろう。すでに、三重県の「モクモク手作りファーム」、茨城の「ポケットファームどきどき」、福岡県の「葡萄の樹」など、地域農産物を使った多彩なメニューでレストランを展開して成功しているところが、実際あるのだ。
今回のプロジェクトの企画は、「食の国あきた推進チーム」である。このチームは、秋田県農林水産部流通経済課にあり、まったく新たにできた各部署から集まった7人の選抜チームなのだという。県知事が秋田の食文化を発信しようと提唱して誕生したのだという。ふだんは、地域での食材を用いた食品の開発や、地域の伝統食と給食の連携、シンポジウムや勉強会の開催などを行い、秋田の食の発信を行うというプロジェクト。今回の催しは、そのなかでも大きなものだという。この企画の素晴らしいのは、講演や研究発表というのではなく、実際の日常の取り組みが料理となり、試食となって、食べる形で示されたことだ。なにせ、おいしい、楽しい、うれしいのである。なんと800名が押しかけた。
試食の会場の隣では、さまざな各地での畑を使った体験や、料理教室の様子などが、パネルで展示された。そのなかで、ふたつの事例が発表されたが、感心したのが「秋田県立横手清稜学院高校 家庭クラブ」の代表、村上梨紗さんの「地域に学び、地域とともに学ぶ」という研究紹介だった。これはアスパラガスの農家に訪ねて、出荷できない不ぞろいのアスパラや、横からでるワキメなどを使って、商品化ができないかと試みたものだ。
生徒たちが、農家、発酵の専門の研究所、お店の専門家を訪ねて、饅頭やケーキなどを開発する。できたものを、仲間はもちろん、一般の人たちににも、見た目、香り、味わいなどの調査を行い、試験をなんども繰り返して、食べるにふさわしい食品を作るプロセスがパワーポイントで発表された。まさに、食を商品化するための試みが見事に具現化されている。彼女たちの試みと、農家の農産物、それにプロの料理人、専門家のコラボレーションがあれば、地域からいくつもの新しい個性的な食が育まれるだろう。そのつながりが、イベントのなかで、見事につながって展示されたのだった。それだけ「食の国あきた推進チーム」の力量が優れたものかというのが理解できた。
寺田典城秋田県知事は「いや食は楽しいね」と感想をもらしたが、まさに楽しさがあふれていた。寺田秋田県知事はあいさつで次のように述べた。「あんなに料理が並んで、勉強になった。地域のものは地域のファーマズ・マーケット(直売所)で売っている。それらが県下で交流して、もっと地域の食文化を知ってもらいたい。平成19年には国体がある。10万人が参加する。そのときに各地域のものを大いに売っていきたい。食の秋田の文化を残したい。ネットワークを作って発展させたい。みんなが手の届くものにしたい。いろんなみんなの技を残してください。商売もしてほしい。全国に売っていきたい」
まさに、知事の言葉どおりの催しだった。頑張れ秋田! と声援を送りたい。(ライター、金丸弘美)
2005年12月1日
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