第38回 給食を通した食育のお手本 東京都北区の柳田小
食育基本法ができてから、食育の推進が各地で行われているが、最も早くから取り組み、まさにお手本的存在といえるのが、東京都北区にある柳田小学校である。なにせ、区も校長も栄養士さんも、非常に理解が深く、学校全体で本物の食を子どもたちにつなぐことが、一年を通して行われているのである。
柳田小学校は、学校で調理をする自校方式。料理は、手作りを心がけ、出来立てが届くようにしているという。しかも素材は旬のものを心掛け、給食の野菜に一部は、提携した農家から届く有機野菜が使われている。あとは、地域の八百屋からのものだが、それも国産で旬のものをとこだわっている。だからだろう、子どもたちの好物は煮びたし。野菜をよく食べるという。食材は、冷凍食品や半加工品は使わない。調味料も昆布だし、鶏がら、本みりん、カツオだしなどを使い、化学調味料は一切使わないという。
北区は1993年から群馬県甘楽町と提携し、小中学校64校(現在統合で60校)の給食の残滓(ざんさ)をコンポスト(残飯を入れて酵素で発酵させる専用のボックス型の機械)で堆肥にし、それを使って甘楽町の農家が有機野菜を栽培してもらう試みを続けてきた。そうして、有機野菜が学校に届けられ使われる。
3年生は、総合学習の授業で甘楽町まで行き、コンポストで堆肥になる循環の実際の仕組みや、土作りや野菜栽培の様子、市販の野菜との味や形の比較、土作りの様子などを観察する。コンニャク芋を堀り出し、それを持ち帰って学校でコンニャク作りを行い、味噌田楽を作るという授業も行われている。総合学習は、1年計画で、全部で20時間が充てられている。
学校の調理室の外には、コンポストがあり、残滓を一次発酵させ、それが甘楽町に運ばれるのだが、一部は、学校の畑で一年寝かせて完熟堆肥にし、これを使って生徒はサツマイモやジャガイモ栽培もしている。また用務員さんが、ザクロや、ビワ、柿を作り、これらも給食にでる。夏みかんは、ママレードになる。また学校の堆肥は花壇の花作りにも使われる。堆肥は希望者にも分けているが、これがPTAに大好評なのだという。
柳田小学校で、お昼にびっくりするのは、ランチルームが6つもあることだ。子どもたちは、毎月異なるランチールを使って食事をするのである。ランチルームに入る廊下には「やなぎだ村」の看板がある。ランチルームは、「わくわくルーム」「ドリームレストラン」「にこにこルーム」「ざくろ」など児童が名づけた名前がついている。「あすか」という和室もある。人気はシャンデリアのある児童が飾りつけをした「レストラン柳田」だ。
ランチルームの食事は、大人が見てもみても楽しそうだし、それに広々として気持ちがいい。実際、気分転換になり、食も進むそうだ。柳田の児童は食べ物を残さないことで、全国でも有名なのだという。栄養士の小池イツ子さんは、毎日、ランチルームに出かけて、全学年の給食に立ち会う。どの子が食が細く、どの子がよく食べるということが、すべて頭に入っているという。余りがちなクラスから、よく食べるクラスに回すという配慮もしているという。
また、一年を通して、給食にもさまざまな工夫がされている。和食を中心として、米飯で日本古来のメニューを多く取り入れている。入学式や卒業式はお赤飯、ひな祭りは五目チラシ寿司、子どもの日はチラシ寿司、子どもの日は、ちまき、など各行事の食もあり、食を通して、食文化を伝えることもされている。さらに、いろんな種類のものからバランスを考えて上手に選ぶ「バイキング給食」を始め、「弁当給食」「親子給食」「交流給食」「おにぎり給食」「試食会」など、コミュニケーションや、親子の交流、選択できる力を学ぶことなど、食の大切さ、素晴らしさ、楽しさなど、さまざまなことが、給食を通して伝えられているのである。
2005年から始まった新しい試みに、パソコンを使った栄養価計算の授業も5、6年生に行われるようになった。これは、児童が自分で食べた朝ごはんをパソコンに入力すると、その栄養バランスが簡単にグラフで出てくるというもの。どの食材が不足して、どれが多いのか、一目で分かるというものだ。こういった授業ができるのも、低学年からさまざな食材と給食に触れる機会が作られているからである。(ライター、金丸弘美)
2006年1月13日
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