第39回 身近にほしいファーマーズ・マーケット 茨城・ポケットファームどきどき
レストランの店内。ゆったりとした空間での食事でくつろげる
最近、全国各地で農家の農産物を販売する直売所(ファーマーズ・マーケット)ができている。また併設して地域の農産物を使ったレストランも増えてきた。そんな中で、個性的でユニークな店舗展開で大人気のところがある。茨城県東茨城郡茨城町の「ポケットファームどきどき」である。水戸駅から車で25分くらい行ったJA全農いばらぎの隣にある。周辺は、広々とした田園地帯を控えたところ。そこに駐車場付きのファームがある。
4ヘクタールの敷地に、レストラン、直売所、イベント広場、小さな動物園、畑などがある。営業は朝10:00〜午後6:00まで。年中無休で運営されている。2000年に正式オープンし、現在動員80万人(レジ通過者)、売上げは13億円にもなった。従業員は11人。他にパート、アルバイト90人が働く。
雨の降りしきる土曜日、朝10時30分に出向いたところ、200台あるという駐車場は、ほぼ7割は埋まっている。直売所に入ると、多くの買い物かごを下げたお客さんが来ている。レジの方に「すごい人ですね」というと、「今日は雨で少ない方ですよ。ふだんはもっと多い」という。鎌田定宗部長の案内で、施設を見せてもらった。
人気の秘密の一つは、奥の方にあるレストラン。広々として、天井が高く、木を中心に、たっぷり採光のためのガラスが使われ、実に気持ちのいい空間。お昼前なのに、すでに入口の横に置かれた椅子は、満員で順番待ちである。メニューは地域の新鮮野菜や加工品を使った家庭料理を中心とした70種類。ビュフェ方式で、好きなものを食べることができる。ランチは1365円。125席がある。1日400人が訪れる。年間売り上げは、現在1億8000万円。正社員2人とパート35人で切り盛りされている。
従業員の人たちの白い衣装がきりりとして清潔。しかも対応が実に気持ちいい。新しい料理ができると、皿をかかげて大きな声で、インフォメーションされる。客層が実に幅広い。小さな子どもから高齢の人まで、家族連れも目立つ。毎日、開店前から多くの人が並ぶ。それもそのはずで、ご飯、味噌汁、スープ、チャーハン、カレー、てんぷら、かきあげ、サラダ、湯豆腐、パスタ、フルーツなど、さまざな食べ物が大皿に並び、出来立てのものが次々に登場するのである。
とても全部は食べきれない。あまりの多さに目移りがする。メニュー構成が、どんな小さな子どもにも、高齢者にも対応できるようになっている。海藻や野菜を中心にしたヘルシーなコーナーや、おからや豆腐を使っての健康食もたっぷりある。しかも、この素材、ファーム内で栽培される新鮮野菜を始め、直売所に出す農家の農産物をメインに使われているのだ。調味料、加工品などは、すべて手作りや、本物が中心。化学調味料は使わない。だから薄味だが、素材がしっかりして、味わいが豊か。どれも上品でおいしい。
「ここの料理を食べていると、他の店にいったときに食べられなくて困る」と鎌田さんは苦笑い。「スタッフは、すべて料理を食べています。新しい素材があると、随時料理をしてみる。僕も、これ料理してと頼むこともある。メニュー開発は、毎日のようにやっている。いけるとなったら、出してみます」という。
農家100戸の野菜売り場。女性が買いやすいように60センチの高さになっている
直売所の方は、近郊の農家100戸が出す農産物や加工品を中心とした売り場に、惣菜や肉、お酒まで、さまざまな調味料や加工品が置いてある。品揃えが独特。野菜は地元農家からのものだが、ニンジンも何種類もあるし、大根も、ジャガイモも、さまざまな品種がある。加工品は、無添加、化学調味料や保存剤の入ったものは、置かない方針。地元のもの、煎餅や、魚のみりん干しなどは、すべて協議して、天然醸造の塩やみりんを使った本格的なものを並べている。すべて鎌田さんやスタッフが現地に行って、確かめたものだという。取引も直となり、多岐にわたる。値段も高めになりがちなものもある。しかも商品を作るところからだから時間もかかる。
「時間がかかっても、値段が少し高くとも構わない。同じものを大量に安く並べるのでは、スーパーと同じ。スーパーには、量も仕入れもかなわない。競争をしても意味がない。うちは少量多品目。他でないものをそろえる。安心、安全、新鮮は、もうあたり前でしょう。いろんなものがあったほうがいい。具体的なコミュニケーション、土の香りを大切にしている。どれも味が違うし、料理の用途が違う。売り場の者も全部調理して食べているから、きちんと語れるようにしています」と鎌田さん。
農家の一軒あたりの売り上げは、最低500万円から。最高はなんと2200万円。トップの人は女性。その中心は、自らの農産物を使った赤飯や餅、饅頭などの加工品。最初30戸で始まった直売は、年々増えて現在100戸。すでに20代、30代の後継者が6人も生まれたという。売り場での値段は、農家自ら付けることができる。手数料は15%。搬入は朝7時から始まり、9時にはすべて納品してもらい、売れ残ったものは、引き取るのが決まり。商品の根付けや加工、売り方などは、専任のベジタブル&フルーツマイスターで所長の小泉孝光さんが、アドバイスしてくれるので、気軽に聞くことができる。
農家は毎月1回は集まって会議をするのがきまり。有機農業の研究で、無農薬無化学肥料の取り組みや、飼料や肥料、計画など、みんなで勉強会も開催されている。それだけではない、周辺には、イベントができる場所がいくつもあり、毎週、イベントが行われる。北国の雪を運んで農家も参加した「雪祭り」や、農家でのイチゴ摘みや、トウモロコシ摘みといった体験型のものもある。手づくりソーセージ体験やバーベキューなども行われ、実に多彩。
直売所のすぐ前のテント張りの広場では、イチゴやみかんの販売が行われている。「室内だけでは、中に入らないと見えないこともあって、外でも販売をしています」。また茨城農業大学の学生たちが、栽培した農産物の販売もしている。大学の先生から相談があり、栽培だけでなく、自ら袋詰めをして販売、接客することも学ばせたいと相談があり、引き受けたのだという。
2005年の秋からは、地元の有機農業研究会の指導で、ファーム内での循環型農業の本格的取り組みが始まった。「こういう場面が必要と思う。スーパーではできない部分。レストラン、直売所だけではだめで、すべての要素があっての、ポケットファームどきどき、なんです」と鎌田さん。こんな施設が身近にあれば、どんなに買い物も食事も楽しいことだろう。
2006年1月19日
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