第40回 農業・加工・消費者教育まで一体化 三重・モクモク手づくりファーム
モクモクファームの外観。馬や豚などに触れることができる体験施設
農業と地域の新しい再生の活動ということで、ずっと注目してきたのが、三重県の農業法人「伊賀の里 モクモク手づくりファーム」である。多くの人々を招き寄せ、かつ地域に経済性をもたらせたということで、2005年毎日新聞社主催の「グリンツーリズム大賞2005」を受賞した。ファームは三重と滋賀の県境近くの西湯舟にある。最近合併をして伊賀市になったが、それまでは人口8000人の阿山郡阿山町の山村だったところだ。山間地にあるモクモクファームには、三重県はもちろん、名古屋、大阪、滋賀から、年間50万人が食事に訪れるのである。
ファームは木造を主体とした、さまざまな施設がある。テーマは食と農業。ここでは、180人が働いている。平均年齢は27・5歳。食べ物を作り、加工し、販売している。それだけだったら、どこにでもある地方の大型食品店と変わらない。ところが、米、野菜の栽培から、乳牛などの農業もしていれば、ハム、パン、和菓子、ビールなどの加工施設もある。ウィンナーや大福などの体験施設もある。宿泊施設もある。温泉もある。ちょっとした食のテーマパークなのである。おいしいものがあって、体験施設があり、くつろぎの宿まであるのだ。
食がテーマの施設は実に個性的だ。その一つ、例えばレストラン。地場の野菜や、モクモクで作った米はもちろん、手作りのハムやソーセージなどが出てくる。お粥、パン、カレー、五穀米、煮物、サラダ、テンプラなどなど、皿に盛られた食べ物がずらりと並ぶ。これが実においしい。レストランの天井は本物の葡萄の枝がはっていて、秋ともなれば葡萄が実る。レストランを使っての手づくりの結婚式も行うことができる。他にも飲食施設は、バーベキューハウスや和食のレストランもある。
レストランの隣には、パン工房があり、国産小麦と天然酵母を使ったできたてパンが、販売されている。パスタもある。あるいは、地元の農家120軒が出荷するファーマーズ・マーケットがあり、新鮮な野菜が購入できる。他にも、ビールやハム、和菓子などの加工工房や、ソーセージの体験工房などがある。
一番の人気で、モクモクの基盤を作りあげたのが、ウィンナーの体験施設である。今では、各地で同じような施設が見かけられるようになったが、モクモクが始めたのは1989年からである。当時、何もなかった山間地に4万人を動員するヒット商品となった。現在も7万人が参加する、中核の施設だ。現在は、ファームを中心に、周辺の地域、松阪、鈴鹿、名古屋などのレストラン展開、食の通販まで乗り出しており、売り上げ28億円。今年は38億円になる見込みだ。
モクモクは、1983年に、養豚農家16戸を中心に出資して誕生した。最初は、上質の豚を作り、それを少しでも高く売り、農業経営を豊かにすることが目的だった。豚は輸入ものがどんどん入ってきて価格競争にさらされ、畜産だけでは先が見えなかった。そこで、少しでも優位性が高く、単価があがるようにブランド作りが始まった。豚を餌作りから変えて、さっぱりした味のブランド豚を生み出した。
しかし肉だけでは、そう大きくは利益は上がらない。また農業の生産だけでは、農業は生き残れない。価格も低いし、自分で価格決定できない。販売も農協・経済連・市場という形態で、人任せである。付加価値の高い商品はなかなか生まれにくい。そこでハム、ソーセージの加工に踏みだし、消費者の意見を入れて、ソーセージの体験教室を開いた。これが、生産者と消費者の顔の見える関係、安心安全の信頼作りにつながり、山間地に人を呼べるようになったのである。
さらに、消費者の要望を入れて、バーベキューハウスを作り、土地の小麦からモルトまで作る地ビール、地域農産物と自らの加工品を使うレストラン展開まで行うようになったのだ。それらはすべて、消費者の意見を取り入れながらのものだが、しかし、安易な妥協はせず、できるだけ地元のものを使い、手づくりと体験を全面に押し出した農業公園という形で展開してきた。ファーム内では、大福作り、パスタ作りといった体験から、田んぼの生き物調査、キャンプ、お化け大会まで、親子を楽しませ、かつこの地域ならではのイベントを年間50回以上も行い、ファーミリー客をしっかりとつかんでいる。
最近、宿泊施設も作った。この施設は、太陽電池、風車などを取りいれ、エコロジーに配慮したもの。しかも小型のジャージー種の牧場を作り、朝、乳搾りや畑での収穫もして、農業体験もメニュー化したユニークなのものだ。これを食品会社で農業を知らない新人従業員や、食や農に関心のある企業の研修に使ってもらおうというわけである。農業がソフトの販売まで手がけ始めた。
伊賀の里 モクモク手づくりファーム http://www.moku-moku.com/index2.html
2006年1月26日
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