第41回 給食を通してきめ細かな教育 八王子ふたば保育園
八王子ふたば保育園のことを知ったのは、東京・八王子の牧場、磯沼ミルクファームの磯沼正徳さんからだった。園児たちが牧場に牛をわざわざ見学に来るばかりでなく、牧場で作られる取れたてのミルク、それも低温殺菌牛乳と、ジャージー種のミルクで作られるノンホモのプレーンヨーグルトを毎週食べていると聞いたのだ。牧場には、園児たちが名前をつけた「シナモン」という子牛もいた。
早速保育園を訪ねた。園はJR八王子駅から15分ほどの住宅街にあった。定員60名の小さな園で、2歳児から6歳児を預かっている。開園してから51年になるという。園長は明石千恵子さん。「磯沼さんのところは、近所に牧場があると知って訪ねたのが始まりです。時々、子供たちを連れて牧場に行きます。『子牛が生まれたよ』って、磯沼さんから連絡がきたときなんかに行くんです。片道歩いて私でも40分はかかるけど、運動になるし、広々としていいんです」
毎週水曜日に磯沼さんのところからミルクとヨーグルトが配達される。ヨーグルトは、午前中のおやつとして出している。
「ミルクは、瓶から注いで陶器のコップでいただく。というのも今は、パック入りが多い。きちんとビンから注いで、コップで飲むということをして欲しいからなんです。なぜ磯沼さんかというと、すごくおいしいからなんです」と明石先生。
ヨーグルトは、プレーンでまったく砂糖も甘味料も入っていない。子供たちに感想を聞くと「おいしい」とみんな言う。ミルクそのものの味わいを子供たちはしっかり味わっていた。先生は牧場に行くから牛の名前も知っていて「今日のミルクは、マリリンちゃんかなあ、ローズちゃんのかなあ」と、言いながら食べさせている。磯沼牧場の牛は、全部名前が付いているのだ。
八王子ふたば保育園では、給食を出しているのだが、園児の健康と食の大切さを知るということで、実に細やかな対応がされているのには驚いた。新鮮な食材を選び、バランスのいい給食にしているのである。食材は、調理師の町田清子さんたちが、毎日、近所の八百屋さんや魚屋さんに足を運んで購入する。旬で新鮮なものを選ぶ。「魚屋さんが、今日は、活きのいいのが入ったといえば、素材を変えることもあります」と町田さん。
給食は和食中心。基本はご飯。おかずは魚、野菜が多く、味噌汁は具だくさん。和食でバランスのいい食事を、という配慮から。家庭の食事が洋食や外食で油が多く、子どもたちに生活習慣病が広がっているからだ。給食は、毎日、入口に展示し、迎えに来た親に、その日、子どもたちがどんなものを食べたか説明するようにしてある。というのは、現物を見てもらい、家庭での料理のバランスを考えてもらうという配慮からだ。
調理室は教室に併設され、ガラス越しに中が見え、料理の工程がわかるようにしてある。それで、できたての温かいものが、すぐ食べられるようになっているのだ。お昼は、窓越しに一人一人給食をもらって食べる。調理師さんは、みんなの顔を全部覚えている。食の細い子のことも考えて、料理は少なめに。もっと欲しければおかわりで対応し残さないように工夫している。
給食の食器は陶器を使い、おわんは木製。ミルクは陶器のコップ。食べるのははしだ。おはしは、年齢に合わせて少しずつサイズが異なる。「小さい子は、まず木琴のばちを使って楽器を鳴らすことから、はしの持ち方を学びます。すぐにできるようになります」と明石先生。それぞれが木のテーブルに座って給食を食べるのだが、みんな行儀がよくて、はしの使い方はとても上手だ。
食を通して学ぶ細やかな配慮が隅々まで行き届いている。しかも園児たちは、交替でご飯の炊き方から料理の作り方も学んでいると知ってびっくり。毎日、年長さんの5歳児と6歳児の3人が調理室で調理を行う。三角巾を被り、エプロンをつけて、栄養士さん、調理師さんの指導で調理をするのだ。ニンジンを切ったり、ゴマをすったりする。一人はご飯を炊く。そうして年長さんは、お昼には、自分たちでご飯もおかずもよそって食べるのだ。「子どもたちは料理が上手ですよ。会話もあるから『今度は、おやつはアンパン作りたい!』なんて話にもなったりするんです」と調理師の町田清子さん。
「調理をすると自分の作ったものは残さず食べます。今は、お母さんでも調理をしない人がいるので、子どもたちを通して食べることの大切さを伝えたい」と明石千恵子園長。2歳児にはもやしのしっぽ取りなど簡単な料理の準備を、3歳から4歳は、野菜をほぐしたり、豆をサヤから出したり、おやつのおにぎりやドーナツを形にしたりと、食に触れ合うことを園児みんながしている。どの子も人懐っこくて、明るく元気。それもバランスのいい食が基本になっているに違いない。こんな園の取り組みが、地域や学校で広がっていけばどんなに素敵だろうと思うのだ。(ライター、金丸弘美)
2006年2月2日
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