第48回 練馬区立八坂中学校のバイキング給食
学校給食に興味をもって、全国の保育園や小中学校に毎月行き始めたのは4年前からだ。というのも子どもたちの食は最も大切なところだし、どんな給食が提供されているのか知りたかったからである。行ってみて、僕らの小さい頃とは違って、さまざまな素晴らしい給食を試みている栄養士さんたちがいることを知って驚いた。
地元の農家と連携した食材の利用、親も参加する試食会、農家を呼んでの給食、行事を取り入れた行事食、生徒がメニューを決めるリクエスト給食、いくつかのおかずから選べるセレクト給食、お弁当にして庭で食べるお弁当給食など、日常的な取り組みはもちろん、月ごとのアクセントとしての楽しい給食が行われていることを知った。
最近出掛けたのは練馬区立八坂中学校(生徒数203人)の1年3組のバイキング給食である。そのメニューの見た目の素晴らしさ、楽しく食べることのシチュエーション作り、手づくりでの丁寧な食作りと、何から何までが、心配りされていた。しかも、特別教室にテーブルに明るいクロスを掛けて、きれいにディスプレーされている。見ただけでおいしそうだ。大きな皿に美しく盛られた料理から好きなものを選ぶという、普段とは違った給食なのだ。
メニューは
ゆかり、おかか、わかめのおにぎり
わかさぎの南蛮漬け
鶏のから揚げ
野菜のうま煮
ほうれん草のナムル(地元農家から届いたもの)
ミニトマト
りんご、みかん
フルーツカナッペ(いちご・ばなな・キウイ)
牛乳
テーブルに並んだ彩り豊かな手づくりの料理の数々。教室に入ってきた男の子が開口一番「うわっ、おいしそう。今まで、食べたことなかったかも」と目を輝かせた。おにぎりは、栄養士と調理師で握り、湯煎の鍋にいれて冷めないようにし、すぐに運ばれてきた。おかずも色とりどりにお皿に盛られて、デザートまでがある。すべて一つ一つ調理室で5人の調理師さんによって手作りされたものだ。みんなで分け合って、どれから食べようかと、もう笑顔いっぱいの会話が始まる。「みんなで楽しみながら食べられるのがいい」「ときどきやって欲しい」と生徒にも大好評。バイキング給食は、各クラスごとに、一年に一度、開催している。
この日は特別で、校長先生も、副校長先生も副担任も、用務主事さんも子どもたちと同じテーブルでの食事をする。「普段と違うもので楽しさを感じてもらうのが目的。先生が参加するのは、多くの子どもたちとできるだけ触れ合って欲しいからです」と高畠勇二校長先生。「普段から給食がおいしいから、すごーく楽しみでした。今日は、いくつも食べてしまいました」と担任の伊地知加奈先生。伊地知先生は、毎日のように調理室で「おいしかったです」と声をかけていくので、調理師さんからも喜ばれているという。
栄養士の飯島敬子さんによると、ふだんの給食は材料に冷凍食品や輸入もの、半加工品も使わない方針。全部国産で、手づくりで給食を作っているという。練馬区には農家があって、農家から届けられる地元の新鮮な野菜も使っている。大根、ほうれん草、キャベツ、ネギ、ブロッコリー、ニンジン、水菜などである。料理は、出汁も化学調味料は使わない。和風のものは、カツオ削り、サバ、煮干、昆布を使う。洋風のものはトリガラを使う。料理は手作りで温かいうちに出すことが行われているのである。評判がいいはずである。1食あたりの給食の材料費は309円である。
「栄養士は安全安心の食をつかさどる一番大切なところだし、大事な仕事。食材は地元の八百屋さんや専門の肉屋さんに届けてもらっています。自分の考えを述べ、調達してもらっている。業者の方も非常に熱心な方もいます。五穀やキムチ、キノコなど直接送ってもらっているものもあります」と飯島さん。飯島さんは前任の練馬中学のときに、地元農家6戸と連携した給食をしてきた。八坂中学校に転勤してからも地元に農家があることがわかり、給食に地元の2戸の農家の野菜を取り入れた。
ふだんの授業のなかで、地元の農家の大根で、食材のおいしさを教える栄養士の飯島さん
「実は、今回バイキングをした1年3組に入った子は、野菜嫌いが多いと小学校の先生に聞いていました。それで、6月の家庭科の時間に、食生活と健康を考える話をして、実際に7月の献立を児童が作り、給食のメニューに名前入りで実施もしました。作成の手順や、6つの基礎食品、地域の野菜を入れことをみんなが学びました」と、栄養士の飯島敬子さん。
毎日野菜を学校に届ける白石好孝さんの農園と携帯テレビとパソコンをつなぎ、飯島さんが現場から実況中継しながら、教室で大根の味を知るという授業も行った。「野菜をよく食べるようになりました」と、飯島さんはうれしそうに笑った。農家の白石さんは「飯島先生がすごく熱心だからこちらもやりがいがある。子どもたちは、うちの畑に小学校からサツマイモの収穫や大根作り、社会で地域を知ろうという取材と年3回は来る。中学生も2回は来てる。給食、地域、農家、と関係を作るのが食育ではないかな」と満面の笑顔で話してくれた。
練馬区立八坂中学校 http://www.yasaka-j.nerima-tky.ed.jp/
2006年3月23日
|