第50回 東京の住宅街で四季を味わえる「馬橋リトルファーム」
東京の住宅街で四季を味わうことができる素晴らしい畑がある。杉並区にある馬橋武男さん、和子さんが経営する畑「馬橋リトルファーム」だ。場所は、新宿から電車で15分。京王井の頭線の久我山駅から10分ほど、宮前5丁目の住宅街のなかにある。よく手入れの行き届いた垣根に囲まれ、休憩所のある畑は、さまざまな花々や野菜などが栽培され、四季を告げてくれるのだ。
この馬橋リトルファームでは、毎年素晴らしい春を告げる畑開きが開かれる。一面に咲いた菜の花畑でのお茶会や餅つきでの宴である。そして菜の花摘み。招かれるのは、畑の野菜栽培や販売をお手伝いをしているボランティアの人たち、そうして畑から野菜を日ごろ購入しているお客さんたちである。
2006年は4月1日の土曜日午後2時から開催された。久我山駅から商店街を抜けて住宅街に入るとあちこちに桜が満開である。宮前5丁目の馬橋リトルファームにたどりつくと、そこだけが可愛らしく黄色い小さな花をつけた菜の花が一面に広がる。実はこの菜の花は、冬場から春にかけて栽培されていた小松菜なのである。そのままほっておくとどんどん成長して大きくなり、アブラナ科の小松菜は、黄色い花を咲かせるというわけ。
小松菜は一畝の3分の1を冬場1200円で一般の人に提供されている。近所の人たちが200名以上が申し込み、冬から春にかけて自由に小松菜を摘むことができるというわけである。そうして、小松菜を春まで残してのお花見お茶会という洒落た趣向なのだ。
「小松菜は、普通は早く摘んじゃうから、花までは見れない。一度、最後まで咲かせてみたいなあと思ってね。そのままほっておこうということをしてみたんです。これが綺麗でね。でも、お花見しても一人でお酒呑んでもつまらない。そこで、日頃のお世話になった人を呼ぶことになったんです」と馬橋さん。
このお花見、もう10年目でよく知る人には楽しみになっている。畑の何カ所かにはテーブルが置かれて、稲荷と巻寿司が配られ、お酒とお茶が用意されている。また一画にには赤いじゅうたんが敷かれて、赤い大きな傘が置かれて、野点が行われるのである。参加したお客さん全員に抹茶が出されるのである。そうして、その近くでは餅つきが行われ、出来立ての餅で、あんこ餅、黄な粉餅、大根餅が作られ配られる。
畑で小松菜を契約しているという年配の女性の方は、仲間の女性2人を誘っての参加。菜の花に囲まれて満足そう。「小松菜がとてもやわらかくておいしいの。お花見も素晴らしい。馬橋さんは素敵な方ですね。こんな憩いを与えてくださるんですもの」と絶賛。同伴した女性も「住宅街に畑があるなんて初めて知りました。とても気持ちがいいですね。いい時間を過ごさせていただいて嬉しいです」と笑顔がたえない。
実際、菜の花畑の中に座っているだけで、ほのかに花の香りが漂ってきて、気持ちがとても癒される。なんだか和やかで落ち着いた気分になるのである。夕方には全員で自由に菜の花摘みが始まる。花瓶に飾るために摘む人、食べるために小さなつぼみを中心に摘む人もいる。菜の花の宴が終われば、翌日からは、畑は新しい農産物を植えて、春の本格的な栽培が始まるのである。
3000平方メートルという小さな畑だが、野菜や花がたくさん栽培される。野菜は、トマト、キュウリ、シロウリ、スイカ、モロヘイヤ、サトウキビ、インゲン、小松菜、ヤツガシライモ、サトイモ、シソ、オオバ、カボチャ、枝豆、ニラ、オカヒジキなどがある。ハーブは、タイム、カレープラント、アップルミント、ステビア、レモンバーム、ラベンダー、セージ。果実は、ブルーベリーにスイカといった具合。
住宅街の畑なので、量ではなく四季を感じ味わってもらうという考えから、さまざまな野菜、果実、花々が栽培されている。野菜も花も40種類以上。馬橋さん自身が「いろいろ栽培しているので、ぱっとは思い出せないくらい」というほど。また馬橋リトルファームの個性的なところは、畑に自由に入ることができ、好きな花やハーブなどを摘んで購入ができることだ。そのことが楽しいとすっかりファンとなり、畑のお手伝いをする人たちも生まれた。
畑には東屋があり、その横では、夏場の野菜のある時期の7、8月は月、火、木、土曜日、それ以外の月には土曜日のみの午後3時から、畑から採ったばかりの野菜が販売される。棚にはひもが張られて、そこには八百屋のように、野菜の名前と値段を書いた札が並べられる。ナス、シシトウ、キュウリ、ニガウリ、ジャガイモ、トマト、ピーマン、タマネギなど、ほとんどが100円。午後3時前には、行列ができる。開店とともに、あっというまに売れてしまう。一度、都会の四季を味わいにぜひでかけられるといいだろう。
こんな憩いの場が、都心のあちこちにあればどんなに素敵だろう。都市農業は、今や存続が難しい状況になるが、馬橋さんのような畑のように、憩いと清涼と四季とくつろぎの空間こそが今こそ必要だ。間違いなく、温暖化抑止にも緑は力があることはわかっている。さまざまな多面的な機能を持つ、馬橋リトルファームのようなところを、国も東京も制度的にもバックアップするべきだろう。(ライター、金丸弘美)
2006年4月6日
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