第55回 ギリシャがケラズマ料理をPR
ギリシャ政府観光局主催の「ケラズマ(おもてなし)料理と試食の会」に呼ばれた。ギリシャでは、よくホームパーティーを開き、おもてなしの料理をするのだという。それがケラズマ。またワイン、チーズ、野菜や果実、パスタ、魚介類や羊肉など素材も豊富で、料理も豊かなのだという。市ヶ谷の江上料理学院で行われた、限定40名のデモンストレーションは、ギリシャ政府として、日本で初の試みだった。
今年、1月に就任したブロンドの若く美しい観光局長ソフィア・パナヨターキさんによると「観光は景色や歴史的建造物ばかりではなく、ガストロミー(食文化)も重要な要素。ギリシャには、ワインも食べ物も素晴らしいものがある。ぜひ知ってもらいたいと今年から始めました」という。
旅にとって、食はとても重要なもの。イタリアでは、すでにガストロミーのプロモーションは積極的に行われている。ギリシャも観光に食の文化を打ち出すということらしく、その初の試みの栄光に私が浴したというわけである。
今回は、江上料理学院の教室を使い、調理全体を2時間半にわたって、その素材、調理法なども見せながら、歴史的背景や、ライフスタイルの話も交えるという、とても洒落た趣向なのだ。この形式は、食の興味ばかりでなく、香りから味わいまで、脳から体全体、五感を刺激する。とてもうれしい会であった。
料理を作るのはギリシャ人シェフ、K・ヴァサロス氏。1965年シフノス島で料理家に生まれ、これまでホテル、レストランで活躍。チーフシェフクラブの創設メンバー、ギリシャ美食伝統財団の理事で、ギリシャ・ヨットクラブのチーフシェフ。
この日は、ヴァサロス氏のお薦めのレシピに基づいて料理試食が行われた。
1・ナスのディップ(メリザサラダ)
2・チーズパイ(ティロピタキア)
3・タラのリックソース添え(バカリアロス・スコルダダリア)
4・ラム肉のひき割り小麦とプラム添え
5・ライスプリン(リンガロ)
料理の素材は、すべて日本でそろえたとのこと。輸入食材を扱うスーパーに行けば手に入るもので、今回の料理を東京でもそのまま作ることもできるという配慮もされていた。ちなみにワインは、白の「スピロードワイン」。ロディティスというソフトな品種とシャネルドという最近の品種から生まれたもの。辛口で余韻のあるもの。
ナスのディップは、紀元前400年前にペルシャから入ったものという。米ナスをオープンで一時間ほど焼いたものを小さく刻んで、同じく刻んだトマト、にんにく、ビネガー、塩、胡椒のエキストラバージンのオリーブオイルを加えたもの。ナスがとろとろでトマトの果肉と調和し、全体的に優しく、お酢がうまく効いていて、さっぱりしていて食欲をうんとそそる。
チーズパイ(ティロピタキア)は、一見、春巻き風。細長いフィロシート(パイの生地を薄くしたようなもの)にバターを塗り、角切りしたフェタチーズ、摩り下ろしたケファロティリチーズにミント、卵、胡椒を加えたものを、シートでくるんで、油で揚げたもの。ぱりぱりの皮からとろーりと出てくるミルク色のチーズは、まるでミルクのうまみを凝縮したようで、塩味がきりりと締めてくれて、意外やさっぱりとしている。ワインのおつまみには最上だ。
タラのリックソース添えは、タラを衣で揚げてガーリックソースをかけて食べる。タラの白身は淡白なのだが、ソースにたっぷりのにんにくが、ぴりりとアクセントになっていて、そのバランスが楽しい。ソースは固くなったパンを砕いたものに大めのにんにくとオリーブオイル、酢、卵黄を入れたもの。
ラム肉のひき割り小麦とプラム添えは、ラム肉、それに玉ねぎをオリーブオイルでいため、これにワイン、水を加えてゆっくりと煮たものに、ひき割り小麦、塩、胡椒、プラム、ミントを加えた。肉の香ばしさと果実の酸っぱめ感がうまく溶け合っている。肉がよく脂が抜けてじつにやわらかくさっぱりとした感触がいい。また小麦とプラム、肉の味わいのバランスがよい。味わいよく爽やかな感じだ。
ライスプリンは、牛乳に米、バニラ、砂糖を加えて、かきまわし、ゆでて器に盛り、シナモンをまぶしたもの。シナモンの香りがいい。ミルクとやわらかい米が、とても自然に交じり合って、上品なプリンのようだ。
全体に自然の旬の素材のもち味を生かして、味付けは控えめで、その優しい包み込むような、ハーモニーが絶妙で、気持ちがなごむような、料理で、満足のできた2時間半であった。このプロモーション、今後も展開を企画しているというからうれしい。このガストロノミーの試みは、確実にギリシャへの関心を倍加させることは間違いないだろう。(フリーライター、金丸弘美)
ギリシャ政府観光局 http://www.int-acc.or.jp/greece/
2006年5月17日
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