第57回 高校生が料理を作る休日限定レストラン 三重
高校生が調理のクラブ活動の一貫で、土日祝日にレストランで料理を出していて評判なので、その店を見にいきませんかと誘われて三重県多気郡多気町の三重県立相可高等学校を訪ねた。高校は松阪市から車で30分ほどいったところにある。
学校を訪ねる前日に松阪に着き、早朝の5時半に起きて、調理クラブの村林新吾先生と待ち合わせて向かったのは、三重県中央卸売場である。市場で高校生を2人伴っている。仕入れから高校生が立ち会っていると聞いてびっくり。ぜひ、そこから見たいと出かけることにした。
市場に入ると、村林先生は、生徒を連れて、その日の仕入れの食材を求めて市場内を走り廻る。あちこちから「先生まいど」「先生いらっしゃい」と声がかかる。仕入れた素材を生徒が次々に抱えて車に運ぶ。
「体感することで原価がわかる。自分で足を運べば材料費は安くなる。人を介せば高くなる。店の注文も生徒にさせるんです。筍も大きくなると量が変ってくる。ケースでキロ何本になると、体感させるんです。タケノコも大きくなってくると旬が終わって、ものがなくなる。すると次のメニューを考えないといけない。そういうところまで生徒に学ばさせるんです」と村林先生。
村林先生は、料理として使う素材のほかに、地元で採れた、この時期の旬の芝エビを仕入れた。「これは、本物の地元の素材を、油でさっとあげて、塩だけで、子供たち食べさせるんですわ。それで、今の時期の食材を知ることを毎週やっているんです」と言う。これほどわかりやすく具体的な、素材を学ぶ場はないというものだ。
市場からすぐに高校の調理室に行くと、すでに生徒達がその日の弁当200人分、ランチ250人分の素材の仕込みの最中である。そのなかで、先生は芝エビを油であげて生徒たちにふるまった。そうして、立ったままのまかない食を食べて、朝10時半、いよいよ目的のレストランにでかけた。高校から10分のところにあった。
オープンキッチンで生徒達の働きぶりが見られるようになっている
レストランの名前は「まごの店」。町の直売所「ばあちゃんの店」に隣接して作られていることから「まごの店」となったという。このオープンキッチンになっていて、料理を作る様子が、食事をするテーブルからすべてみることができる。「キッチンはステージ。一人一人スポットがあたり人に見られることで生徒は伸びるんです」を村林先生。このレストランは、高校生の実践の場として町で建てられたものという。
料理を作るのは三重県立相可高等学校の食物調理科の50名の生徒で作る「相可高調理クラブ」。一般の授業としての学校での調理は、1、2年生が週6時間、3年生が8時間。クラブ活動は、月曜を除く放課後3時半から6時半まで。コンクールのときは8時まで。こちらは学校の調理室を使って行われている。「ふだんの授業で料理のことや、包丁の研ぎ方など学んでますから、レストランでは、一切調理を教えることはない。すべて実践の場なのです。失敗もして生徒はきちんと学んでいくんです」
「まごの店」は、土日と祝日の営業。一日250食限定。それに直売所での弁当200食を販売している。レストランは10時30分の開店前には人が並び、午後2時には完売。一日3回転。見事席が埋まって満席なのである。生徒達がきびきびとして動き、しかも爽やか。食材も地場のものを中心にいいものを揃えているとあって、大人気なのである。
ランチのメニューは、3種類があった。
花御膳(テンプラ、季節の魚や野菜の煮染め。だし巻き卵。松阪牛のしぐれ煮。汁物、ご飯)。
魚コンクール優勝ランチ(ぶりのサンド。気まぐれサラダ。鶏のスープ。魚のフライ)。
名物まご定食(手延べ煮麺。テンプラ。季節の魚や野菜の煮染めだし巻卵)
味付けが素朴。素材の持ち味をしっかり活かしてある。視覚的にも彩りもよく、季節が感じられ、見た目にもおいしい料理である。お値段は800円。レストランの隣では、直売所で生徒が2名で、弁当を販売。季節のおかずがたっぷり入った弁当。お値段は600円。これも次々に売れていく。
レストランでは、料理はもちろん、接客から会計まで、すべて生徒が行う。それも実にスームス。まったく無駄がない。朝10時半に開店するのだが、開店前には行列ができ、たちまち満員。14時までにはすべて売り切れてしまう。
お客さんの様子を見ていると、生徒の家族がやってきたり、先輩が後輩を連れてきたりと、すっかりコミュニケーションの場所にもなっている。売上げの3割が、クラブの活動費に当てられ、食器や備品の購入、みんなの食事会に使われている。食器は、一般の料理店と同じものが揃えられていて、食器と料理の盛り付けも本格的に学べる態勢になっている。
レストランの仕入れから準備、調理、接客、注文、後片付け、掃除、会計まで、すべて生徒たちが行う。見ていると無駄口は一切ない。とても気持ちがいい。お客さんが入ると、「いらっしゃいませ」と大きな声が響き、帰りには「ありがとうございました」のあいさつ。
仕入れから、料理、接客まで、きちんとすれば、店は活気があるんだなあということを、改めて生徒達に教わった気がした。ここの生徒たちが素晴らしいのは、みな料理が好きで集まっているということ。しかも料理をしたいという目的が明確にある。輝いている。久々に感動を味わった一日だった。(ライター、金丸弘美)
2006年6月2日
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