第59回 地域の農家を先生に「畑の教室」 大分県・長湯小
大分県竹田市直入町の竹田市立長湯小学校では、地域の農家の人たちが、児童に畑で農作物の栽培を教える「畑の先生」という授業が行われている。この日は、サツマイモの苗植え。先生は、学校給食に農作物を入れている近所の農家の大塚マチさん、大久保泰代さん、大塚久子さん。学校のすぐ近くの畑で、先生の指導で苗植えを全員で行った。
苗植えは、畑の畝に張ってあるマルチ(雑草対策のフィルムシート)に細い竹の棒で穴を開け、そこに苗を差し込んでいくものだ。雨上がりの少しぬかるみもある畑で、児童達は、丁寧に苗を植えた。「苗の切ったほうを穴に入れてくださいね。葉は太陽のほうに向けてください。太陽の方に育っていきますからね」と先生の指導に従って、一本ずつ植えていった。この苗植え、5年生は、翌日に近所の幼稚園に教えに行くということが行われ、幼稚園の児童との交流も行われているのである。
「苗植えの前に、サツマイモの由来や栄養価、食べ物の働きなどを学習しました。また、畝作りも、前の授業で行いました」と神田亮子校長先生。サツマイモは秋になると収穫をし、グランドでの焼き芋、各学年でのお楽しみ会、生産者との料理教室が行われ、食べることになる。畑の教室は、他にジャガイモの種植えから収穫と料理も行われているのである。また、5年生は、JAの方の指導で、田植えと収穫体験も別に行っている。
それだけではない。学校の畑では、1年生から6年生まで、ミニトマトやスイカ、インゲン、枝豆などを栽培していて、お楽しみ会で食べるということもしている。「農作物を栽培するのは、豊かな心を育て、科学の芽を養い、生命の尊重を伝えるためです」とは、校長の神田先生。
神田先生は、食は児童の成長に大きく関わるだけでなく、豊かな児童を育てる大切なことという考えから、食への取り組みをとても大切にしている。「朝ごはんを食べずに気分が悪くなる子や、食べてもお菓子をつまんでいる子や、好き嫌いが激しく、落ち着かないなど、都会と差がなくなってきています」とも言う。
長湯小学校の給食は、地域の農産物を取り入れた学校給食を行っている。その給食に毎日のように野菜を届けている農家5軒の人たちが畑の先生として、学校の農作物指導に参加しているのである。給食を作るのは、竹田市直入学校給食共同調理場。小学校2校と中学校1校の212名の給食を作る。調理場ができたのは昭和44年。昭和48年から、地域の農家と連携した取り組みが始まった。
「地元の農産物を優先して使っています。例えばイチゴなど、季節の農産物を、5軒の農家を中心にあちこちに声を掛け、10軒の農家が直接もってきてくださいます」とは、栄養士の森永則子さん。他は、地元の農家が出荷する市場やAコープなどを利用している。給食は地場農産物を使った手づくりが基本だ。
また生徒達が栽培した作物を取り入れたり、中学校の調理場での一日体験学習、森永さんが学校に出かけて、授業での栄養価や食の話をするといった取り組みも行っている。「献立は生きた教材という考えで作っています」と森永さん。
長湯小学校で、給食をいただくことになった。生徒は全部で74人。全員が先生たちと一緒にランチルームで給食を食べる。それも1年生から6年生までが縦割りで7グループに分かれている。6年生がリーダーとなり、給食ばかりでなく、畑の教室やスポーツなどでもグループ制がとられている。縦のつながりを大切にし、上の子が下の子の世話をするというリーダー制がとられているのである。そのなかに交じって給食をいただいた。楽しいひとときであった。(ライター、金丸弘美)
2006年6月18日
|