第60回 地域を巻き込んだ「食育公開授業」 佐賀・有田
佐賀県で地域の食文化を発信するネットワーク「オリザジャポニカクラブ」を2005年9月に発足した。発足まもなく会員は68名にもなった。農家、加工業者、料理家、ジャーナリスト、公務員、栄養士、大学教授など多彩な顔ぶれ。共通しているのは、地域の本物の味を未来の子ども達に伝えることである。
これまで民家と地域食材を使った料理会や、唐津市立浜玉中学校の公開給食、福岡県の農家レストラン「ぶどうの樹」への先進地視察、地域レストランの推奨などを行った。そうして、2006年、新たな事業として1年間の取り組みとして計画的に始めたのが、「朝ごはんで四季と素材と味わいを学ぶ講座」である。
実施したのは有田町立有田中部小学校(全児童568名)で、
4年生を対象に平成18年6月〜平成19年2月にかけて、4回の講座を学校とオリザジャポニカクラブの協同企画として進めている。これは「食育公開授業」という形での展開で、広く地域全体に知ってもらうという活動である。そうして企画を佐賀県の「平成18年度・炎博記念地域活性化事業」に申請し、50万円の補助をいただけることとなった。
4回の事業内容は以下の通りである。
第1回 「お米とお塩の味比べ」どんな味かなぁ? 期日・6月19日(月曜)午前9:30〜 講師・金丸弘美
第2回 「昔の朝ごはんをテーマに野草を使った料理」 えっ?!
伝統野菜って 野草なの? 期日・10月下旬予定 予定地・未定 講 師・貞松光男
第3回 「栄養と器から学ぶ朝ごはん」 栄養素をゲームで学ぼう!・栄養のバランスってなに? テーブルコーディネイトから学ぶ食育! 期日・11月下旬予定 講師・尾崎知子先生(有田中部小学校
栄養職員) 澤野香代子・福田雅子
第4回 「シェフから学ぶ朝ごはん」地域の食材を使って 期日・2月初旬予定 講師・ホテルグランヴィア大阪から
そうして、第1回目の講座を、6月19日に、有田中部小学校のランチルームで、小学4年生105名を対象に実施した。塩とご飯をティスティングして、五感を使って表現力を豊かにするという「味覚の講座」である。事務局の白濱美保子さんから、地域のお米を使い、また地域の米作りを知らせたいということになり、授業は、佐賀県産の米を使って行うこととなった。
当日は、オリザのメンバーを中心に、農家や塩作りの人たちも学校に来てくださり、16名が調理室を使って、ご飯やティスティングの準備を行った。
授業は2時間目=塩の味覚講座、3時間目=ご飯の味覚講座、4時間目=オニギリ作りと質問コーナーと、45分間の3時間を使ったもの。
用意した塩は、(1)サンゴ礁の干潟あら塩・鹿児島県徳之島(2)ひじき藻塩・長崎県対馬(3)一の塩・佐賀県唐津市加唐島(4)海塩・イタリア シチリア地方(5)食塩・塩事業センター。
用意した米は、(1)ひのひかり・佐賀県有田町=西山林克さん(2)天使のうた・佐賀県唐津市久里=加藤整さん(3)夢しずく・佐賀県伊万里市大川内山=古川伊之生さん(4)ひのひかり・佐賀県武雄市山内町=山口初美さん。
塩とご飯を味わう講座である。グループごとにわかれて、まずは塩からそれぞれ用意した用紙に感想を書いていく。「見た目」「香り」「味わい」「感触」そして、総合的な「感想」である。用紙には「目」「鼻」「口」「手」の絵が描いてある。米も同様にして、感想を書いていく。
児童は、みんな真剣で、しかし、みんなとわいわいと相談しながら、感じたことを、素直に表現してくれる。そうして発表してもらうのである。それまでは、どこの塩か、だれのお米かも伏せてある。そうして、発表を行い、それから、どんな塩や米かを紹介するのである。微妙な味や香りの違いを、子ども達は、豊かに表現してくれた。
なかでも、素晴らしかったのは、(1)番の地元の米を表現した女の子である。「私はおばあちゃんが農業をしていて、おばあちゃんからの贈り物のような味と香りがしました」というものだ。彼女にとっては、地元で生産されたお米に、おばあちゃんの暮らしを感じてくれたようなのである。しかも、(1)番の米は、もう15年の間、農家の西山さんが、有田中部小学校の5年生に米作りを教えてきた田んぼの米だったのだから驚きである。
最後におにぎりを作って質問コーナーとなったのだが、これが元気に次から次に手があがる。「お米は何種類ありますか?」「塩はなぜ辛いのですか?」から始まって「人はなぜ生きたものを食べるのですか?」という哲学的なものも含めて多彩。また「オニギリにあわせたい具は?」という問いかけには、昆布や明太、カツオ節など、さまざまな具材を、子ども達が答えてくれた。
最後に、農家の山口初美さん、塩作りの大草秀幸さんに、質問にたっていただいた。山口さんは、生き物いっぱいの田んぼで、稲を育てている環境のことを話してくださった。大草さんは、美しい海のことと、塩づくりを話してもらった。そうして、いつでも子ども達がきても、見学ができることを約束してもらったのだ。
この公開授業は、多くの地域の人に関わってもらうと同時に、広く広げていくのが狙いだが、さっそく、翌日は大きな報道もあったことで、活動が多くの地域の人に知られると同時に、他の学校でもやってみたいとのリクエストがあった。なによりうれしかったのは、校長の原崎慶輔先生をはじめ、担任の先生たちが、児童がはつらつとして、素敵な表現をしていたと、評価をいただいたことである。
問い合わせはオリザジャポニカクラブ(事務局 白濱美保子)で、電話・FAXとも0955-42-6435。。(ライター、金丸弘美)
2006年6月23日
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