第61回 シェフに素材や料理を語ってもらいながら食事すると…
時々、レストランで料理の会を行っている。親しい人に声を掛けて、参加者をご紹介をする。同時に、料理もシェフに素材から語ってもらい、そのアレンジを解説してもらい、食材のコラボレーションを楽しみ、それをもとにゆっくりと語り合うという趣向のものだ。僕ら素人には思いもつかない展開と味わい、それにさまざまな組み合わせや調味料、素材の持ち味もわかって、とても面白い。
なによりも、同じ料理を食べるにしても、素材や料理まで解説していただくと、脳が活性化するというか、がぜん思考のチャンネルが変化し、五感が刺激されるのか、すごく賢くなった気分がする。それに、好奇心のチャンネルが全開して、仕事への意欲も増すようなのだ。テーブルには大抵、食に詳しい人が必ずいて、話がさまざまに広がっていく。それがさらに楽しさの領域を深くもしてくれる。
そんな食事と語らいの場としてよく使わせていただいているのが、青山の草月会館の2階にある「レストラン薔薇」である。草月会はいけばなで知られるが、この2階にレストランがある。故・勅使河原宏氏のデザインだそうで、床が竹で敷き詰められている。一階がノグチイサムデザインのいけばなの展示会場。レストランの窓からは、緑がいっぱいの高橋是清公園が見え、とてもぜいたくで落ち着いた雰囲気なのだ。
しかも値段がリーズナブル。昼間は、カレー、オムライス、ハンバーグというメニューだが、丁寧に作られ、すこぶるうまい。夜は予約制でコースメニューとなるが、それも5000円程度。素材は厳選されたもので、味には定評がある。なにより、落ち着いた雰囲気で楽しめるのがいい。
シェフの宮口泰三さんは、1966年、北海道函館生まれ。辻調理学校をでて、フランス・リヨンの二つ星レストラン「ベタール」、駒沢「ラ・ターブル・ド・コンマ」、築地「クラブNXY」を経て、草月の故・勅使河原宏氏に料理の腕を見込まれて「レストラン薔薇」を任されるようになった。「安くおいしい、いい素材を提供したい。それ喜んでいただいきたい。きちんと対応して、マメにやると、値段を高くしなくとも、いいものができるんです」と、宮口さん。
今回お願いしたのはヨーグルトを使った料理。というのも、宮口さんに、八王子の牧場・磯沼ミルクファームのオリジナル・ヨーグルトを使い、さまざまなレシピを開発してもらい、それを僕がかかわった「HOME MADE ヨーグルト」(雄鶏社)の本のなかで、披露してもらったといういきさつがある。どうせなら、それを親しい人たちに食べてもらおうと、料理会を試みたのだ。
その日のメニューは、宮口シェフが目の届く範囲ということで15名限定というもの。実にバラエティーに富んでいた。
▽ジャガイモのディープ、うずらの温泉卵とキャビアのコンソメのジュレー。新玉葱のキュシュ。野菜のマリネ、イベリコ豚の生ハム。サツマイモのフォアグラのペーストカナッペ。
▽キュウリのすりおろし。函館産有機ルッコラ、春巻き、ホタテ、エビ、ホワイトアスパラ、サーモンのプレーンヨーグルトかけ。下にはタバスコ、トマトのヨーグルトソース。
▽山形産和牛のほほ肉とアキレス腱のシチューとバターライス。
▽イチジク・ホルトと赤ワインコンポート。ゆずアイスクリーム。ヨーグルトのクレムダンジュ。
▽コーヒー。
これらの料理には、ソースはもちろん、キュウリのすりおろしやシチューにも、たっぷりのヨーグルトが使われている。ヨーグルトというと、直接食べたり、フルーツを入れたりとなりがちだが、シェフの手にかかると、あらゆる応用が効くことがわかる。それが、料理を通して、視覚的に、味わい的に、広く理解できたのがうれしい。これからも、こういった試みを続けていきたいと思っている。(ライター、金丸弘美)
●レストラン薔薇
〒107-0052 東京都港区赤坂7-2-21 草月会館2F
TEL:03−3401−8405
2006年6月30日
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