第64回 地域と密着した学校給食 大分・佐伯市の直川小
大分県佐伯市に「大分県食育事業アドバイザー」として、毎月のようにうかがっている。この事業、「食育」をテーマに、地域の食文化の活動を地域づくりに生かしていけるようにアドバイスを行うというものだ。「食育」いえば、最も大切なところに学校給食がある。「どこか熱心なところを案内してもらえないだろうか?」と役場の方にお願いしたところ、連れて行っていただいたのが、佐伯市の山間部、宮崎県に近い旧直川村の直川小学校だった。
海側の佐伯市役所から約1時間、おだやかな山林に囲まれたところにぽっかりと新築の学校が現れた。中学校と小学校が一緒に建っている。広々とした土のグランドがあり、その向こうに緑豊かな山々が広がっている。空気がすがすがしく、また情景がすばらしい。そして学校に入って驚いた。床も壁も杉が使われて、木の香りがぷんと漂い、とても気持ちを落ち着かせてくれる。教室が広々としている。そうして素敵な中庭もある。こんな恵まれた環境の学校があっただろうか、と思うほどの素晴らしさだ。こんなところに都会からの短期でも留学を募集すれば、たくさんの参加があるに違いない。
調理室は小学校と中学校と隣接していて廊下ひとつですぐに繋がっていて、できたての暖かい給食が、すぐに教室に届くように配慮されている。しかも調理室は、いくつもの窓があって、外から調理の様子がわかるようになってもいる。ここの給食は、小学校と中学校2校をまかなうセンター方式。ところが両校をあわせても、なんと225食。だからすべて手作りで、しかもかなりの食材で地元の新鮮なものが使われている。
1週間のうち月、水、金曜は米飯給食。お米は地元のものである。野菜類も積極的に地元のものを使おうと、平成16年から毎月1回、生産者、納品業者、栄養職員、佐伯市の地域振興課農政係の人たちが集まって「食材提供グループ定例会」を開いている。「農業振興のひとつとして始めました」と農政係の下川秀文さん。定例会は、翌月のメニューが決まってから行われ、どの農家に何があるかを調整して、給食に食材が手配される。給食の食材を農家から集荷して学校まで運ぶのは、地元の業者、水田青果の水田真也さんの仕事だ。
生産者は4グループ15名。朝採りの新鮮野菜が学校に届く。野菜がおいしいと児童にも評判がいい。ふだんから60パーセント前後の地域食材が使われる。多いときは食材の100パーセントが地元のものだ。「子供たちも喜んでいます。どの生産者のものか知っているんです。給食の残りは、ほとんどないですね。こんなことがありました。80歳になる女性の生産者の方が、心臓が悪くて、もう危篤状態になった。そのときに、子供たちが寄せ書きを書いて、また野菜を作ってくださいと送ったら、その女性の方が子供たちに野菜を作らねばと、奇跡的な回復をされたことがあるんです」と山田さん。
実は学校では月、水、金曜に、放送でどこで作られた誰の野菜かをアナウンスしているのである。「栄養面のことはもちろん、霜のときは霜よけをしているとか、農薬を使わないで、虫取りは手で行っているとか、いろんなことを感謝を込めて話してもらいます。農作物の紹介や生産者のことは、私の方で書き、それを児童が読みます」と語るのは学校栄養職員の志賀浩美さん。給食のメニューは決まっているものの、その気象条件や収穫量で、地域の野菜が使えなかったり、また多く取れたりすることもあるので、臨機応変に対応しているという。
それだけではない。年間を通して、生産者との交流を行っている。小学生2、3年生は、なすやピーマンの収穫体験。また全児童が生産者の指導で米作りの体験をし、5年生はもち米作りをしている。それらは収穫体験を行い、学校に生産者、保護者などを招いて、もちつき、おにぎりでの会食会も行われている。ほかに、生産者や佐伯市の農業振興課など役場の人招いての「なかよし給食会」も実施されている。そうして年間を通じて、地域の人と児童たちとの交流もされているのである。
さて、この日頂いたのは、地元野菜がたくさん入った、夏野菜のカレーとキャベツ、ハムのサラダ。児童たちから「かぼちゃが甘いよ」「ジャガイモがおいしいよ」と感想があがる。みんなで楽しく給食を食べたのだが、素敵な環境での食事は、とてもおいしいものだった。(ライター、金丸弘美)
直川小学校 http://www.saiki.tv/~naosyo/
2006年7月24日
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