第69回 荒れ放題の休耕地 NPOが緑あふれる畑に 東京・町田
東京都の住宅地の町田に、地元住民が参加して美しい景観を守ろうと、農業をするグループがある。「NPO法人たがやす」の人たちだ。小田急線およびJRの町田駅から、バスで約20分。薬師池から徒歩で15分ほどのところ、七国山(ななくにやま)というゆるやかな丘陵があり、そこが「たがやす」のメンバーが参加する畑である。ここには東京の一部とは、にわかに信じがたいほどの、緑があふれている。ソバの花が咲き、サツマイモ、オクラ、かぼちゃ、ピーマン、ナス、キュウリ、ネギ、コンニャク、モロヘイヤ、スイカなどさまざまな農作物が栽培されている。
栽培されている土地は、もともとは20年も放置されていた休耕地だったところ。国の土地だったものが、町田市のものになったものの荒れ放題。それを地元で農業支援活動をしていた「たがやす」の事務局長、斎藤恵美子さんたちが、耕作を引き受けることとなったのだ。平成15年のことである。「最初は、土に戻してくれさえすればいい、程度の話だった。地元の農家の人も、素人では無理といっていたのです。それを仲間と、除草から始まって、一年がかりで、とうとう畑にしてしまった。ここは公共の場なので、3分の1は環境作物として秋はソバ、春は菜の花を植えることになっています」と、斎藤さん。
畑にしたことで、さまざまな出会いが生まれた。ここで野菜作りを習ってみたいと言う人が生まれ、研修授業が始まったのだ。町田市在住の人が、現在、15名参加している。スタッフは、二期生を含む16名と、それに農業の先生としての地元の農家4名という構成。4月1日開講で、毎週土曜日に、畝作りから、堆肥作り、種植え、除草、収穫まで、さまざまなことを学ぶ。無農薬無化学肥料で栽培されている。20代の女性から60代の男性まで、参加者の顔ぶれは広い。4月開講で1月まで。月の授業料は2000円だ。
参加者の一人、松村正治さんは、恵泉女学園大学の専任講師で町田在住。「大学には畑があって一年生は有機栽培をするのが必須なんです。大学では、僕は園芸と環境を教えている。自分でも土に触れないと説得力がない。といって、僕はマンション暮らし、市民農園も近くにない。市の広報で知ったのが、ここの畑。自転車で20分と近いし、いろんな野菜を作るというので、参加しました」と松村さん。
スタッフの一人、中道忠和さんは、定年後「この素晴らしい環境を守って、自然をぜひ次世代に残したい」とボランティアで活動をしている。近くの農家の援農活動をしながら、自らも小さな畑を借りて、野菜作りをしている。一年間の野菜は、ほとんど自給でまかなっている。「市民大学で、町田の自然環境を学びました。それがきっかけです。ここの活動は、新聞で知りました」という。中道さんは、畑の四季を追って、花々や昆虫の写真を撮り、町田の美しい自然を知ってもらうことも行っている。
NPOたがやすの発足は5年前。事務局長の斎藤さんは、もともとは生活クラブ生協の活動をしていた。そのなかで「都市農業研究会」に所属していた。そこからサークルが生まれ、地元農家11軒と連携するNPOが誕生した。会員は現在80名。援農は農家の要請があれば、農業を手伝う。自給460円と新鮮野菜だ。そんななか、参加スタッフが、習ったことを自ら試みる場としての畑が欲しいと、切実に思っていたところ、市から休耕地の話があり、畑作りの試みが始まったというわけだ。
ただし、公共の場ということで収穫した作物は、基本的には販売できない。市の援助で種代や苗代、講師料の3分の1の補助で行われている。研修生は、収穫された農産物を持ち帰る。また近くの施設を使ってのソバ栽培からソバ打ち体験や、菜種から菜種油作りなどの体験も行われるようになった。初期スタッフから、実際に千葉県で就農した人も生まれた。
「私たちの活動は、やっと5年目。地域の人たちにも少しずつ認められ、農家の人にも、行政の人にも、やっと知ってもらったところ。本当のスタートはこれからですね」と斎藤さん。NPOの活動は、最初は無理だと言われた荒地を畑によみがえらせ、美しい景観を誕生させて住民の散歩コースと憩いをもたらした。さらに地元の食に関心の深い人たちを集め、住民が農をとおして景観を守るという、新しい形を生み出した。ここからさらに都市の自然を守る新しい取り組みや、地方との連携した就農なども誕生するかもしれない。(ライター、金丸弘美)
●特定非営利活動法人 たがやす
〒194-0023東京都町田市旭町1-23-2生活クラブ生協町田センター2F
電話・FAX 042-727-1202
特定非営利活動法人 たがやす http://homepage3.nifty.com/npo-tagayasu/
2006年9月1日
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