第72回 伝統の食文化を守る創業300年超の麹の店 大分・佐伯
大分県佐伯市船頭町のかつての佐伯城下の京町通りは、旧商家のあったところで古い町並みが今も残っている。そこには酒蔵、旅館、和菓子店など、昔からの店があるが、なかでも今では珍しくなった麹の店「麹屋本店」がある。
木造家屋2階建てで屋根瓦のある店舗は、昔のたたずまいを今も残している。創業は300年以上前の江戸時代元禄2年(1689年)。港町の佐伯は、今も漁業が盛んだが、「麹屋本店」の創業者の吉左右衛門信義は、もとは船頭だったという。店舗の室を通って奥に入ると蔵があり、その脇には、昔の舟に使われた板が、そのままに残っていたりもする。
100年前の蔵の前に立つ(左から)浅利幸一さん・和子さん夫妻と良得さん
現在は、8代目になる浅利幸一さん和子さん夫妻が、麹造りを受け継いでいる。それと浅利さんの孫にあたる良得さんが、現在、修行中で、伝統の麹を広く知ってもらいたいと、宣伝に努めている。麹造りは、店舗の中にある室で作られる。使われる米は大分県産。麹は大阪の樋口もやしという店から取り寄せている。1回に創るのは180kg。少ないときは60kgのときもある。よく洗米をし、水に3時間をほど漬けて2時間ほどして工房でボイラーのスチームを使って蒸す。
蒸した米を冷やして麹の種をつけ、室で一晩寝かす。室のなかで35℃になる。ここで麹菌を繁殖させる。固まったものを手でほぐして、一升づつの麹蓋に積み上げる。それをさらに7、8時間室に置くと、熱を持ち麹菌がさらに繁殖する。それを均等にまぜて一晩おくと、熱があがらなくなり、麹ができあがる。
できた麹から、甘酒や味噌などが生まれる。甘酒は、麹と餅米を使う。もち米を蒸して餅つき機で混ぜて、これに麹を入れて一晩発酵させるとできあがる。店舗で販売してる甘酒の基を使い、電気釜に炊いたご飯とお湯と麹を入れて保温をしておけば一晩で簡単に甘酒を作ることもできる。
味噌は、麦と大豆と塩と麹を使う。麦は福岡産、大豆は佐賀県産、塩は長崎と、九州のものを使っている。米の麹は、いったん塩を入れて発酵を止める。これに大豆を洗って蒸したものと、米麹をあわせてよくミキサーで混ぜて寝かせる。早いものは1カ月。熟成させるものは、半年間寝かせて出荷する。
「商売としても面白い。麹を育てる生き物の世界、製造過程も面白い。麹の文化を広げたいし復活させたい。甘酒もビタミンが多く、栄養ドリンク以上の栄養素ももっているということもわかりましたし、ぜひ多くの方々に知ってもらいたい」と良得さん。
良得さんは、学校での味噌造りの教室や麹の室の見学会、県での食育の会での麹を使ったワークショップなども始めた。せっかくの古いたたずまいから見学してもらい、町並みやかつての麹作りの様子までも見てもうらおうというわけだ。また県の産業科学技術センターと連携しての商品化とブランド作りも行っていて、伝統の食文化を新たに発展させようとの意欲的な試みが始まった。(ライター、金丸弘美)
2006年9月26日
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