第74回 東京・渋谷の幼稚園で、秋を食べるワークショップ
園児たちとのワークショップの模様(中央が金丸さん) 写真撮影:小杉皓男
明治神宮の近くにある東京都渋谷区立山谷幼稚園の園児を対象にした「食育」講座をという依頼があったことから試みたのが、果物を使った「味覚講座(ワークショップ)」。手、鼻、口、耳を最大に使い、手触りや音や香りなどを感じ、五感を最大限に使って、食べ物を表現するというものだ。食の大切さを伝えるとは言っても、話だけでは小さい園児には、なかなか伝えにくい。集中していても30分が限度。そこで、園の先生やスタッフの方々と相談して、園児が参加して、体験を通して食べ物を知ってもらう講座をしてもらうことになった。
本物の食材をつかったワークショップ。梨、りんご、栗、ぶどうなどをボックスに入れて、両脇から手を入れて、触って、何が入っているかを当てるのである。ただのクイズではなくて、触った形を伝えることで、子供たちの豊かな表現を引き出すというものだ。それと四季が大人も子供も見えなくなってきていることから、秋の果物を使うこととし、テーマは「秋を食べる」にした。
ボックスに入った果物が、いったいどんなものか、まず園児に表現させる。それから、どこから来たのかを紹介し、実際に味わい、今度はどんな味かを知る。さらに春、夏、秋、冬の果物の絵があって、それが、どの季節のものかを当てるというクイズをするというものだ。梨は、鳥取県の東京事務所の方にお願いをし、りんごと栗とぶどうは、茨城県の直売所のポケットファームどきどきの鎌田宗定さんにお願いして、それぞれ届けてもらった。園児に聞かれたときに、どこからやってきたかを、こちらではっきり説明ができるようにするためだ。
開催したのは9月22日。3歳児から5歳児の40人が対象だ。山谷幼稚園の小さな多目的ルームには舞台があり、そこには葉っぱが用紙で作ってあって、秋の雰囲気のアーチが作ってあった。そしてスタッフの方々が、果物を入れるボックスを手作りしてくださっていた。ボックスは長さが30センチ、高さが20センチほどで、両脇に穴が開いていて、そこに中が見えないように黒い筒状の布がついている。手を入れて中に入れた果物を探すのである。
ボックスに手を突っ込んで、中の果物は「何かな?」 写真撮影:小杉皓男
教室は、園児たちがきちんといすに座っている。その前に長めのテーブルがあり、そこに果物を入れたボックスを置いた。ボックスは6個あり、それぞれリンゴ、梨、ぶどう、栗が、別々に入っている。園児たちは、6つのグループに分かれて、グループごとに、それぞれ前に出てきて、ボックスにあるものを手で触って、何が入っているのか、手触りだけで、考えるのである。みんなで相談して。「まるい」「つるつるしてる」「なんかこんな形していた(と、ハートの形をする)」「上のほうに角がある」なんて梨を表現する。「あっ、わかったぞ!」という声もあがる。で、「みんなで相談して、後で教えてね」と言って席に返すのである。
これが次のグループは、中にはぶどうが入っていて「あっ、小さいまるだ」「まるとまるがつながってる」「さくらんぼかなあ」とか、になる。栗だと「硬い」「こんな形してる(と、手を三角にしてみせる)」。りんごは「あっ、つるつる、ほっぺみたいだよ」「なんか、上のほうにとげがあるよ」「梨かな? りんごかな?」となる。園児たちは、仲間と真剣に中身を考えてくれる。これが実に盛り上がったのだ。表情がとても素晴らしい。「絶対リンゴだよね」「いや梨だよ」「丸かったよ」「僕はわかったよ」と、一所懸命中身を話し合うのだ。
そうして6グループが、一巡したところで「さあ、中には何が入ってたかな?」と言うと、次々と「ハイ、ハイ」と元気よく全員から手が挙がった。今度は、それぞれのグループから何人か代表が出てきて箱から中身を出してもらって、正解となる。そうしてにおいをかいでもらって、「どんなにおいがする?」と、香りを表現してもらった。
みんなで一切れづつ梨を食べる園児たち 写真撮影:小杉皓男
この後は、春、夏、秋、冬を当てるゲームである。先生とスタッフのみなさんが、ボードを用意してくださっていて、そこに「はる」「なつ」「あき」「ふゆ」のカードが張ってある。そこにボードの裏から、ぶどう、柿、みかん、さくらんぼ、すいか、梨、栗、りんご、いちごなどの絵を、出して、それがどの季節に入るのかをあて、それをボードに張っていくのである。これも「ハイ、ハイ」と元気に、どんどん手が挙がった。そうして、ボックスに入っていたものが、実は、秋のものだということを知るゲームなのである。
そうして今度は園児に一切れづつ梨を食べてもらい、香りや味を表現してもらう。「甘い香りする」「すっぱい味もする」。なかには「ジューシー」「やさしい」と表現する子もいて、みんなを驚かせた。
紙芝居で説明する西谷さん(右) 写真撮影:小杉皓男
そこから、鳥取県東京事務所からきてくださった、観光物産担当副主幹の西谷美樹子さんに、梨が育って、山谷幼稚園にくるまでを紙芝居で紹介していただいた。この紙芝居、園児は行儀よくしっかりと見てくれた。全体で、ほぼ40分のワークショップとなった。終わって、「さよなら。みんなとても上手に秋を食べてくれたね。みんなおいしいものを食べて元気になろう」と言うと、園児たちにわっと囲まれて、「今度もきてね」「遠足も行こう」とか、みんなが握手をしてくれる。うれしいワークショップとなった。(ライター:金丸弘美、取材協力:北方
美穂)
2006年10月6日
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