第78回 旬の具材を使ったおにぎりで人をつなぐ 大分・佐伯市
大分県佐伯市で、毎月1回、乳幼児を持つお母さんと子供を対象に、おにぎりを作ることとなった。題して「四季と旬と人をつなぐおむすび講座」である。佐伯の新米を使い、具にするのは、四季おりおりの地域の旬のもの。佐伯は港町だから、アサリやみりん干しやしらす干しや海のものを使う。もちろん野菜も使ってもいい。四季の旬のもので、地元のものを使い、毎月毎月、異なるおにぎりを作る。しかも最高においしいおにぎりを作ろうというのだ。
主催は福祉保健部健康増進課。親子の会の名は「ふれいあい広場」。この会は平成13年から始まったもので、ふだん地域につながりのない、お母さんたちに、コミュニケーションの場を作ろうということで始まったものだ。保健福祉センターの施設を使って、毎週2回開かれ、これまで健康相談、子供の遊び、紙芝居などを行ってきた。
おむすびの講座は「食育セミナー」として新たに始めたものだ。対象は「ふれあい広場」に集まる乳幼児を持つ親子である。そもそもこの企画、役場職員向けの食育のセミナーを開催したときに保健係の河村昌江さんの相談がきっかけだった。「集まったお母さんたちの子供で、なかには朝ごはんを食べない子供がいたり、お昼にコンビですますというケースもあって、食の大切さを伝える食育を、どうしたらいいだろうか」というものだった。
最初は、お母さんたちに講演をというものだったが、小さいお子さんを持つ人が多いというので、講演をするよりも、食べるほうが楽しいだろう。しかも朝ごはんの欠食や昼のコンビニという食生活を改善したいというなら、地場の最高の食材を使って、最上のおにぎりを作れば、安くて簡単で、おいしいものが、気軽に食べることができる。それでおむすびを作ろうとなったのだ。そして、少しの時間を使って、ワンポイントだけ、短い時間で、紙芝居を使って、子供たちの食の大切さを伝えてから、みんなでおにぎりにしようとなった。
ただし、米は佐伯の新米、塩は地元の天然塩、具は佐伯の地元でとれた旬のもの。すべて、生産者や購入先をリストにし、お母さんたちが、購入したいと言えば、すぐ連絡できるようにしておくこと、を条件とした。そして入場料を100円にしてもらうようにした。こういう会は、ほとんど無料というのが多いのだが、100円で最高のおむすびを作ることができ、コンビに行くより、ふれあい広場に行って、おいしい食材を知ることが、楽しいと思ってもらえるようにしようと考えたのだ。
10月17日に、1回目の講座が、保健センターの教室「和楽」と隣接した調理室を使って行われた。集まったのは、親子20組である。会場は、なんと見事なディスプレーで、秋が演出してあった。受付には、狸が月で踊りだす様子を折り紙で折ったものが、コスモスとともに飾ってあった。部屋には、正面の白板に、森の動物たちが、仲良く丸太に座って食事をしている様子の可愛い大きな絵に、「食育セミナー」と書いて掲示してある。その横には、おにぎりの食材、米、黄な粉、梅干、芋、しらす干しの生産者の顔写真と、生産者の言葉が貼ってあった。
部屋の後ろには、ススキやコスモス、柿、栗、かぼすなど、秋の果実がディスプレーされていた。白板の前の卓上には「朝ごはんを食べよう」「お菓子には砂糖がいっぱい」など、子供の健康にとって、ふだんの食べ物で、注意することを、やさしい絵で紹介したポスターをパネル貼りにしたものがおいてある。また、子供の食の大切さの紙芝居も用意してもらった。準備をした保健師の河野幸代さんは「参考テキストにした『むすんでみませんか? おむすび』を見ていたたら、おむすびを結ぶだけでなく、器や飾りなどが、四季によって違う。雰囲気作りは大切だなあと感じて、みんなで、飾りつけもしたんです」という。
河村さんの司会で始まった「ふれあい広場」は、まず、子供たちを取り巻く食やお菓子のこと、旬のビタミンのこと、かむことが大切なこと、肥満のこと、朝ごはんの大切さを、紙芝居で、わかりすく紹介した。子供たちを取り巻く環境は、簡単に食べ物が手に入り、その結果、お菓子や清涼飲料水、ファストフードなどで、お腹がいっぱいになり、片寄った食生活になりやすく、その結果生活習慣病につながるケースが増えている。いちばん大切な時期に、旬のもの、できればご飯で、朝昼晩をリズムよく食べて欲しいことを話した。
いよいよおにぎりの講座である。保健師の河野幸代さんが、ご飯と具材を紹介。この日のために、河村さんと河野さんが、生産者のもとに出かけて、すべてインタビューを行い、顔写真とコメントの入った食材のリストを作成してくださり、それが参加者に配布された。「生産者のところに行ってみると、みなさん熱心に話をしてくださいました。しらす干しの加工では知らないこともありました。きな粉は原料を明確にしようと、大豆を作っている農家のものを購入して、それを炒って、きな粉にしました」と河村さん。
その後、隣りの調理室でおにぎりを、4班にわかれて作った。小さな子供たちも参加してのおにぎり作りである。食改善グループの5名の女性の方々もボランティアで参加してくださった。出来上がったおにぎりをもって、教室に戻って親子でおにぎりを食べる。「お米がおいしい」「梅とちりめんが合う」など、好評であった。
「これから毎月、佐伯の最上の食材を使って4種類のおにぎりを作ります。地域と旬と人を結ぶ、おむすびです」と、言うと「わあー」と声があがった。そして、お母さんの笑顔が広がった。会の終了後アンケートをとったのだが、集計の結果は、すべての人に好評で、継続して行って欲しいという声が圧倒的だったという。次回以降は、毎回、1テーマで、子供の食の大切さをやさしく伝えることを必ず行うこととして、ときには生産者も呼んで行う講座もしてみようとなった。とりあえず半年間、24種類のおむすびをむすぶこととなっている。(ライター、金丸弘美)
2006年11月2日
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