第80回 大学誘致を目指し「味覚講座」を毎週開催 神奈川・湯河原町
このところ毎週のように「味覚講座」を行っている。ほとんどが企画から参加し作りあげるものだ。基本の食材を使ったワークショップ形式で進めるもので、テキストを作成し、その背景、栽培法、味わい、個性などを専門家も交えて紹介していくものである。今回は、神奈川県湯河原町で「湯河原四季の恵みセミナー〜オータムフルーツ〜」。湯河原といえば温泉とみかん。みかんを味わってみようというわけである。
実はこの講座、現在計画中の「食文化創造大学院大学(仮称)」の誘致のデモンストレーションとして行われたものだ。大学構想は人材育成事業をしているバンタンデザイン研究所の株式会社シンプルアイ(大学院設置会社)と湯河原町との連携で進められている。これはイタリアのスローフードの食文化の大学の講座にヒントを得ている。イタリアのスローフードでは、基本の食材をベースにしたワークショップが、大学の授業のみならず、イベントでは必ず行われている。大きなものになると、200以上の食材の講座が開かれる。
講座の目的は、本物の食材をきちんと消費者に伝えること、地域のすぐれた食材を購入してもらい、マーケットにのせること、それによって地域の経済を支援することである。また、地域の個性と食材を再発見をし、それをもとに新たな特産品作りや、料理の開発、観光にもつなげることと明確な目標をもって行われている。なにより、食が教養講座、文化講座として、定着しているのが素晴らしい。その食文化の講座の初の試みを行ったのが、今回のセミナーなのである。
平成18年11月18日の土曜日に一般の人70人を集めて、湯河原観光会館で開催された。まずは、みかんの栽培と特徴を、専門家に来てもらってパネルディスカッション形式で説明をうけた。みかん栽培農家の榎本昌之さんと鈴木稔さん、みかんの技術指導者の国見翼(たすく)さん、湯河原みかんの販売を手がける石沢秀樹さんが、講師メンバーである。人選、テキスト作りは、シンプルアイの柴田香織さん、上前泊正(うえまえとまり・ただし)さん、
湯河原町食の特区推進課宮下睦史(みやした・よしふみ)さんたちが、早くから農家に出かけて下準備をしたものである。
かんきつ類は、数多くの種類があるが、今回取り上げられたのは、一般になじみの多い温州みかん。温州みかんの始まりは鹿児島県。中国から伝わった柑橘から偶然生まれたものという。中国でみかんが美味いといわれる「温州(うんしゅう)」の名前から取られている。湯河原は、10月から11月にかけて早めに食べられる宮本早生、湯河原で作られた甘み、酸味、うまみのバランスがいい大津4号、湯河原で生まれた藤中温州、収穫後貯蔵をして2、3月に甘みを増す青島温州などがある。湯河原はみかんの北限だそうだが、温暖で雨量が少なく、傾斜面で日当たりがよいこともあってみかん栽培が盛んになった。また都心に近い、温泉地であることから、多くの人に広く知られるようになったという。
こういった背景を踏まえて、後半は、湯河原、熊本、愛媛のみかんをそれぞれに食べ比べた。同じ温州といっても、地域や時期によって、色合い、酸味、甘みも異なる。いくつかのグループにわかれて、みかんを楽しんでもらった。そのあと、柑橘から生まれたハチミツ、ジャムを使ってのチーズとのマリアージユである。つまり組み合わせを楽しむ。ハチミツとしし柚子のジャムは地元の農家、早藤さんの農園で生まれたもの。甘夏のジャムは桜井さんのオリジナルと、いずれも地域から誕生したもの。
これにあわせるのは、白いクリーム状でソフトなマスカルボーネチーズ(イタリア)、青かびのあるゴルゴンゾーラチーズ(イタリア)、白カビのチーズのブリロモー(フランス)である。それぞれの組み合わせの楽しさ、そこから意外なおいしさ、料理の発想が広がる。なにせ最上の素材を組み合わせて食べるのだから楽しいことこのうえない。約3時間にわたったワークショップは、「地元のみかんなのに知らないことがあって勉強になった」「チーズの組み合わせなんて初めて。とても味がよくて参考になった。家でも試してみたい」「湯河原の四季の味で、これからも続けて欲しい」など、好評であった。(ライター、金丸弘美)
湯河原町役場 http://www.town.yugawara.kanagawa.jp/
2006年11月21日
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