第82回 唐津くんちに合わせ特産市開催 唐津玄海食のプロジェクト事業
佐賀県で「唐津玄海食のプロジェクト事業」が始まった。2006年11月から2007年3月にかけて、地域の食の市場と、一つのシンポジウム、それに10回のワークショップの開催を行い、食文化の振興を図ろうというものだ。皮切りは、11月3・4日に行われた「唐津くんち」に合わせ唐津駅前で市場の開催である。
「唐津くんち」は、全国に知られるようになった秋祭り。開催時期は、商店街が祭りの中心となって、各家で料理を作ってもてなす。地元の人たちは、多くの料理を味わうことができる。ところが旅行者には、ほとんど商店が休んでしまうために、食事をするところがない。そこで、駅前で簡易な食事ができて、なおかつ地元の食材や加工品をアピールしようと行われたのが、特産市である。
唐津市は平成17・18年と市町村合併が行われ、1市6町2村が一つとなり、佐賀県全体の面積の17.4パーセントまで占めるようになった。このことで、これまでになかった広範囲の地域が加わることで、多彩で豊かな地域や景観、さらに多様な食の文化を持つ市に生まれ変わった。
観光で知られる唐津のなかで、食の文化は唐津の歴史や風景と同等にもっとも必要とされるもの。新しい唐津の誕生のなかで、地域活性化につながる食材の発見と商品化、広報などが求められている。そこで、新たに合併となった1市6町2村にある歴史ある食材を現地で食べてもらおうと、市場が開催された。市場には2日間で1万1000人が訪れた。
この市場をきっかけに、10回のワークショップを開催することとなった。各地の農場や農家などの中庭で、その農家や地域の特産物を食べてもらおうというものだ。つまりカルチャーセンターの食材連続講座と考えるとわかりやすいだろう。このベースができれば、佐賀県が進めている「食育事業」とも連動できる。そうして子供に本物の味を伝えることにもつながるというわけだ。
1回目のワークショップが、デモンストレーションの形で、11月28日に唐津市本町の旧佐賀銀行の建物を使って行われた。赤レンガの旧佐賀銀行唐津支店舎屋は、明治45年に建ったもの。設計は清水建設の田中実。東京駅や日本銀行本館を設計した唐津出身の辰野金吾の指導を受けた建物とされる。この歴史ある建造物のなかで、シーズンの生カキと佐賀県産の日本酒を味わってもらうという趣向。歴史と文化と味覚が融合する宴である。
内部にテーブルが並べられ教室形式に作られた。壇上には、カキ生産者の坂口登さん、鮮魚店の亀山ひろみさん、日本酒プロデューサー中村豊一郎さん、玄海水産振興センター所長の村山孝行さんなどが並び、カキの歴史、養殖、唐津での大浦産、名護屋産、唐房産のカキなどの味わいの違いを紹介。また唐津産のレモン、ゆず、カボスなどで、実際に味わってもらった。さらに佐賀県産の酒米を使い、佐賀県の蔵で醸造された日本酒を日本酒プロデュサーの中村さんが紹介をし、風味や香りを含めて、カキにあう日本酒を披露し、実際にティスティングも行った。
同じ地域のカキでも天然、海の状態、養殖の時期などで、形状も見た目も味わいも違う。また柑橘をかけるだけで味わいがまったく異なる。さらに佐賀の日本酒にも最上のものがあり、酒米や酵母によって味わいやきれが違うことを学んだ。地元といってもカキの違いとなると、初めてという人も多かった。またカキ養殖では、坂口さんたちの漁師メンバーは、自然豊かな海を守ることは森を守ることという考えから、森の植林にも参加し、環境づくりをしている活動も紹介された。カキの背景から味わいまで知る講座は、好評であった。
この後会場を唐津市二夕子にある「唐津市高齢者ふれあい会館りふれホール」に移して、シンポジウム「スローフードと地域活性化」が開催された。実践報告報告をしたのは、松崎了三氏(高知県馬路村ゆず販売戦略仕掛人)、河野友通氏(大分県竹田市観光課)、小役丸秀一氏(福岡県岡垣町ぶどうの樹オーナー)の3名である。3人とも地域の活性化に実践家としてかかわり、大きな実績を上げている。
高知県馬路村は人口1200名の山村。柚子を村の商品として加工して商品化し、それを売り出し31億円にまでした。そのデザインからコンセプトまでを行ったのが松崎さんである。竹田市の河野さんは市の行政マン。市で住民と行政マンが連携して行う竹田研究所の初代課長として、観光、農業、商業を地域で結び、景観と自然と農産物を生かして、人口2万8000名のところに420万人を呼ぶまでにした功労者の1人だ。小役丸さんは、農家、漁業と連携し、地域にあるものを徹底的に利用したレストラン、寿司店などを展開し、田舎のレストランに16万人を集客。また葡萄の木の下のレストランで行う農家のウエディングに年間250組を集めるまでにした。
3人の共通しているのは、「足元を探す」「ないものねだりはしない。あるもの探しをする」「田舎にない他の視点を作る」「地域には宝がある」ということである。すべての実践の報告。しかも、それぞれの立場が違い、それでいて、地域の商品開発や活性化に活力をもたらした人たちだけに、話に説得力があり、かつ個性的なことから、大変な人気となった。
このあと、合併した地域の食材を使ってのワークショップが2007年3月まで10カ所で行われる予定。最後に、まとめの会としてファーマーズ・マーケットの開催が計画されている。これは、唐津市の中町で、かつて行われていたマーケットを復活する試み。中町は、町並み景観の復活を行っており、その活動と連動する試みでもある。かつて昭和30年代前半までは、中町での露店での野菜や鮮魚の販売が行われていた。これを新しく現代版としてリニューアルし、小さい農家や加工品店を支援するファーマーズ・マーケットとして1日あるいは2日復活させる、というものだ。(ライター、金丸弘美)
■問い合わせ先 佐賀県くらしの安全安心課(0952−25−7096)
2006年12月5日
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