第84回 長寿を生んだ環境や食を見直し始めた鹿児島・徳之島
長寿としてギネスブックに登場し、116歳まで生きた本郷かまとさん、120歳まで生きた泉重千代さんが生まれたところが、奄美諸島の徳之島である。徳之島は鹿児島県大島郡に属し、鹿児島方向から、喜界島、奄美大島、徳之島、沖永良部とあって、徳之島は、奄美大島につぐ大きな島になる。その先は、与論島、沖縄。鹿児島空港から飛行機で約1時間、亜熱帯で、年間平均気温は21度。沖縄と気候が似ている。周囲は約82キロあり、人口は2万8000名。島には天城町、徳之島町、伊仙町と町が3つある。島はサトウキビ栽培や牛の飼育が中心で、海は美しい。いかにも長寿を生んだ島にふさわしい環境である。
鹿児島県では「あまみ長寿子宝推進事業」「あまみヘルスプロモーション事業」という、長寿を生んだ温暖な奄美の環境と食と文化を生かして、観光と地域産業に結びつく事業計画が進められている。徳之島では、鹿児島県と連携する形で、自ら地域を見直し発掘し、新たな魅力を打ち出そうと、長寿を育んだ食材の調査、長寿者が食べていた地域の料理、大人から子供の食の調査、長寿のための健康教室など、島全体の取り組みが、積極的に行われているのである。地元の犬田布(いぬたぶ)中学校のように、保健センターや地元の人たちの協力で、伝統的な食材を使って料理をする総合学習授業なども実施されている。
泉重千代さん、本郷かまとさんが生まれた伊仙町では、2006年には、小中学校の食の調査、料理家を招いての地域素材を使った料理講習、地域食材を使ったレシピ作り、家庭料理大集合「第1回いせん・食の文化祭」などを行った。生産農家、加工業者などが中心となった食改善グループや食生活改善推進委員、農業の指導を行う農業改良普及所、保健所、保健センター、役場の保健課などが、毎月2回集まり、地域のどんな食材や料理文化を守り残していくか、具体的な活動のための会議が行われいている。また2006年12月11日には、全島の合同による「徳之島地区生活研究グループ 食の技術交換会」という、地域食材を使った料理会も開催された。
「今年の大きなメインとなっているのは、長寿を育んだ料理のレシピ作り。若い世代にもレシピも含めて伝える指導をしていくことを行っています。家庭料理大集合では30種類の料理が集まりました。鹿児島県では、地域のパパイアやハンダマ(水前寺菜)などの、栄養価を分析した調査報告を出していて、それにそって、地域の食材も調査して写真に撮っています。また料理も冊子にまとめています。さらに現在、食育の実態調査を小中学校、一般とアンケートを行い、まとめています」とは、伊仙町役場保健福祉課の美延治郷(みのべ・おさむ)さん。
伝統的な料理から若い世代も簡単にできるアレンジのものまでを紹介し、2007年度以降は、学校の農園でも地域の野菜を栽培してもらい、子供たちも巻き込んで、おいしい地域のものを食べてもらおうという計画である。同時に平行して行われているのが「いきいき長寿チャレンジ教室」である。2005年から5カ年計画で進められているもので、鹿児島県では、伊仙町と与論島でモデル事業として始まり、今年は伊仙町では、40歳から64歳まで、2005年は21名が、2006年は22名が参加した。生活習慣病予防のために3カ月にわたって健康指導や食事調査や体力調査を行い、健康作りの指導、ワークショップを実施し、その後3年間のフォローを行う。
長寿のプロジェクトを推進する美延さん(左)と澤さん
「参加した人たちからとても好評です。実際に肥満だった人が、生活改善のポイントを知り、運動を行うことで、スリムになって効果をあげた人も生まれています。生活が明るくなり、参加して楽しかったという声があがっています。保健センターの会場を使っていますが、海も使ってやることも計画しています。また伊仙町健康増進予防医療支援プロジェクト事業というものも並行して行われていて、生活習慣病の調査も進められています」と伊仙町保健センター所長の澤佐和子さん。
実は、島全体で大きく動き始めたのは、大きな理由がある。長寿として知られる奄美諸島だが、徳之島での健康調査では、若い世代に本土の生活習慣や食べ物がどっと入り込み生活習慣病が広がり、早世が増えて、平均寿命が下がっている現実があきらかになったからだ。保健センターの調査では、すでに1993年に、若い世代の早世が浮かびあがった。徳之島の30代、40代は、食事での野菜の激減、喫煙・飲酒・ドリンク剤・清涼飲料水の増大、車社会の運動不足という傾向から生活習慣病が増大し、結果的に平均年齢で長寿年齢を下げている。このままいけば長寿者がいなくなるおそれもある。
平成8年度から12年間の5年間における年齢別SMR(標準化死亡比:数字が大きいほど死亡率が高い。全国を100とする)では、伊仙町は30歳から44歳では352と3倍近く、45歳から64歳では138もなった。30代、40代の健康調査で(1709名中男女各100名を無作為抽出。102名回答)で、肥満者(BMI:25以上)の割合は、20歳から60歳男性では、44・7%と全国平均24・3%のほぼ倍。40歳から60歳までの女性は41・5%で、全国平均25・2%の1・5倍近いのである。
伊仙町保健センターと町では、地元の農業高校の生徒、住民、町役場を巻き込んで、2003年、1200名の食の調査を行った。長寿調査90歳以上155名(回答130名)、高齢者の生活実態調査1000名(2417人中無作為で1000名 回答742名)である。これによって、長寿の人たちが食べてきた食材や料理、暮らしと、若い世代の食生活が二極化している実態が浮かびあがった。そして、長寿者の料理や食材や暮らし方に改めて大きなスポットがあたるようになった。
「平成5年から6年にかけての健康調査で、若い男性で早世が広がり、平均寿命が下がっていることを知った。実は長寿でなくなりつつある。非常に危機感がありました。けれど、島では長寿を売り出している。現実を言ってはいけないような雰囲気がありました。しかし、2004年に調査を行い、結果を公表し、シンポジウムを開いたことで、みなさんの意識が大きく変わりました。島の暮らしを見直すいい機会だったと思います」と澤さん。今後、さらに長寿を生んだ環境や食を、食育や健康作りはもちろん、食のブランド作りや、料理にまで普及させていく活動にしていく計画である。
■伊仙町保健センター
鹿児島県大島郡伊仙町面縄2284
電話:0997−86−2124 FAX:0997−86−3219
■伊仙町役場
鹿児島県大島郡伊仙町伊仙1842
電話:0997−86−3111 FAX:0997−86−2301
2006年12月14日
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