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ゆらちもうれ
「ゆらちもうれ」は、奄美・徳之島の言葉で「ゆっくりしていきなさい」という意味です。 ちょっと一休みして、食の現場からの直送レポートを楽しんでいただけたらと思います。
2005年 2006年 2007年 
このページの記事は、2005年4月から2007年3月まで、全国の食をテーマにした各地の新しい取り組みを「毎日新聞」のデジタルメディア「ゆらちもうれ」で、毎週、写真付きで紹介したものです。
第87回 環境に配慮した集落を目指す「エコビレッジ計画」
エコビレッジ構想の予定地になっている本部ダムの敷地

 地域の木材を主体に住宅を作り、周囲には畑や樹木があって、太陽電池も取り入れた環境に配慮した集落「エコビレッジ」の計画が着々と進んでいる。場所は佐賀県武雄市。計画の中心になっているのは一級建築士でNPO循環型たてもの研究塾代表の山田信行さんである。エコビレッジは、これまでの個々人の住宅を建てる方式ではなく、数件のエコロージーに配慮した住宅を希望する人たちが集まり、一つの集落を形成するという構想。

 住宅の周辺や共有部分は樹木、個々の住宅には畑がある。住宅の建築材は佐賀県産の木材。壁には竹や土などを使う。将来住宅を取り壊すことになっても自然に還元できる素材をできるだけ使う。生活で出る生ごみは堆肥化して野菜を作れるようになっている。太陽電池を取り入れるなど、環境に配慮したもの。シックハウス対策もされる。価格は土地代込みで1500万円から2000万円程度になる。現在の価格だと土地が坪2万円程度。2000万円だと十分おつりがくるだろうという。

エコビレッジの完成予定モデル

 すでに武雄市の本部(もとべ)ダムの6000坪の土地が候補に上がっていて、市からも許可がでている。佐賀県も武雄市も、山田さんのエコビレィジ構想を支援している。2006年10月に現地で説明会を開いたところ10組の申し込みがあり、その中から趣旨に賛同した3組が残って話し合いが行われている。最低5組が決定すればエコビレッジの家作りが始まる。

 「予想以上の反響です。第一回の説明会には、県内はもちろん、福岡、長崎などからもお見えになりました。そのあと、京都からホームページを見て問い合わせもありました。場所は、町の中心地から3km、車で5分くらいです」と、うれしそうに語る山田さん。

自然の豊かさの象徴になっている近所の楠の木の前に立つ山田さん

 現地を見せてもらったら、ダムの上方にあり、山並みが一望できる景観のいいところだ。環境は申し分ない。山田さんの構想では、住宅のほかに、こだわりの食の工房を開く人も希望している。食の環境に配慮した食べ物作りをする人が参加すれば、地域食材で、体にいい食べ物と住宅がきちんとそろって、住空間を作れるからだ。さらに他の土地の候補も出ており、今後の展開が楽しみである。

 山田さんは1956年生まれの武雄市出身。かつては、広島と東京で、大手ゼネコンで働いた。病院やホテルなどの設計に携わった。その後、独立し、帰郷して設計事務所を開いた。大きな建築物で、効率を求められ建築や、廃材が多く出る、あるいは輸入建材や化学物質を多く含む塗料や接着剤などの使用など、現在の建築物に疑問を抱き、住環境はもちろん体にもいいエコロジカルな建築を提唱し始めた。

 そんななかで、山田さんは2つのNPOを立ち上げた。一つは平成13年6月に生まれた建築の技術者たちの「循環型たてもの研究塾」。そこから一般の人たちに手づくりの住宅作りを指導する「家づくり塾」が始まった。これは、設計から、土壁作り、塗り替、家の補修など、素人でもできる家作りの工程や部分などを教えて、できるだけお金をかけず、かつ環境に配慮した家づくりを行おうというもの。毎週土曜日に開催され、平均7〜8名が参加している。ここから実際、家を建てた人も誕生した。

町の人口の推移を調査したものを示す山田さん

 もう一つ行ってきたのが「空き屋バンク」である。これは、武雄市の空き屋を紹介して、定住を促進する活動である。「この地域は、昭和29年に合併して3600名がいた。ところが昭和51年には2512名。平成1年には2146名。このままでいくと2000名を切る。なんとかしなければ。行政まかせではいけない。それで4年前、建築仲間とNPOを立ち上げた。まず空き家の調査をした。それをもとに、折込の新聞の発行やインターネットで、発信を行い、現在、6組17人が、空き家に移住して住むようになりました」という。

 「空き家バンク」は、佐賀県の市民活動支援事業資金「炎博事業」の費用から3年間、毎年50万円の援助が出て、その資金で行った。仲介そのものは免許制で、お金がとることができないので、すべてボランティアでの活動である。この活動のなかで、では、土地そのものから環境に配慮したエコビレッジができないだろうかという構想が生まれたのである。そうして、いよいよ実践にと移ったというわけだ。(ライター、金丸弘美)

エコヴィレッジ構想
http://inakanoie.com/ecovtext.html

 2007年1月16日