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ゆらちもうれ
「ゆらちもうれ」は、奄美・徳之島の言葉で「ゆっくりしていきなさい」という意味です。 ちょっと一休みして、食の現場からの直送レポートを楽しんでいただけたらと思います。
2005年 2006年 2007年 
このページの記事は、2005年4月から2007年3月まで、全国の食をテーマにした各地の新しい取り組みを「毎日新聞」のデジタルメディア「ゆらちもうれ」で、毎週、写真付きで紹介したものです。
第88回 南限でカキ養殖に取り組む 佐賀・唐津
カキを引き上げる坂口さん

 生カキは現在シーズンまっさかり。殻つきのままで、新鮮な生カキをオーナー制度という形で発送するというユニークな活動で知られるのが、佐賀県唐津市の坂口水産の坂口登さんだ。カキというと宮城や広島が有名だが、佐賀県唐津市唐房の玄界灘でも養殖が行われている。南限でのカキ養殖である。現在、唐津市漁業協同組合は270名。そのうち7名がカキの養殖に取り組んでいる。

 生カキのオーナーになっているのは、福岡を中心とした九州のお客さん。300名がオーナーになっている。料金は一本が5000円。1本とは、いかだでのカキ養殖での一つ分のこと。いかだにカキの種をつけた帆立貝の貝殻に穴をあけて7〜80センチのひもに通して吊るし、それを海水につけて養殖するのだが、それが一本となる。帆立貝の貝殻は70枚。そこからカキが育つ。6kgくらいのカキとなる。一般売りはkg700円だが、オーナーは600円とお安くなっている。

 「全体での出荷は20トン。私は8トンを出荷しました。今のところオーナー制は順調です。オーナー以外の方にも700から800名の発送があります。お歳暮では3kg3000円の送料込みのお歳暮も人気です」と坂口さん。品質管理も万全とあって、顧客の人気は高い。

玄界灘に浮かぶカキ養殖のいかだ

 坂口さんの案内で養殖のいかだに向かった。静かに見えた海も、いざ外にでると波しぶきがあがる。宮城や佐渡などの養殖は内海で静かだが、唐房は外海とあって、波があるのである。このために風の強いときは、近寄れないときもあるという。いかだから一本一本を引き上げ舟に備え付けた機械でまきとる。自動的に生カキがひもからそぎ落とされていく。舟から引き上げた生カキは、海辺の水槽に運ばれる。

 水槽にたっぷりの海水が入っている。この海水は、海から汲み上げたものだが、いったん外部の200トンの水槽にためて、きれいな上澄みをタンクにひきあげ、それを内部のカキの水槽に殺菌装置を通して落とすのだという。そうして24時間、生カキを海水が流れる水槽に入れる。するとカキは自ら体内除菌をするのだという。この水槽に入れるときは、カキを丁寧にブラッシングして入れている。

水槽の24時間上澄みの海水で体内除菌する

 「除菌作用によってほぼ99パーセントは除菌されます。出荷にあたっては、すべて毎回、目の前の水産センターで検査を受けます」。出荷にあたっては、箱詰めのときに一個一個、死んでいないかチェックを行う。さらにカキを表にして並べるのだという。反対にしてしまうと、身のあるほうに水分がいかずに、カキが弱ってしまうのだそうだ。箱の下には、余分な海水を吸い取る薄いシートも敷かれる。こうして消費者のもとに最上のカキがとどく。

 カキ養殖では、宮城が有名だが、じつは、唐津のカキの種は、宮城の鳴瀬町から入る。宮城との付き合いは5年になる。1年に1回は宮城の人たちとの交流がもたれている。宮城のカキ養殖は、環境を守るために、植林を行い、山を守る活動をしていることで知られる。山は、すべての木々や鳥や獣や植物などの生き物の源だ。そこに雨がふると、山が保水をし、洪水をふせぐ。それだけではない。山の落ち葉を微生物が分解し、そうして川に流れ込む。それがミネラルゆたかで清浄で、魚のえさとなる多くのプランクトンをつくりだす。また海も魚の環境にやさしい海となる。坂口さんたちも漁業組合で、唐津地区の七山での山林の植林、下草刈りの活動などを毎年、3、4月に行っている。

発送は一個一個、丁寧に詰めあわされる

 そもそも、唐津での坂口さんたちが、カキ養殖を始めたのは、冬場の漁業がなかったからだ。坂口さんは、漁船漁業が主体。クルマエビや餌エビなどを採ってきた。また磯の魚を採ってきた。漁業漁船は2月は禁漁。ごち網も1月から3月15日まで禁漁である。これに加えて、近年は漁獲が3分の1になったという現実がある。最近は、くらげやグミ(なまこの小さいような形をしたもの)の異常発生もみられる。原因は不明である。これはなにも唐津に限ったことではない。各地でみられる現象なのだ。

 環境が大きく変わったのは、川の上流のダム施設や、川の整備による水の流れの変化である。川の周りがコンクリートのブロックで整備されると、一見奇麗に見えるが、じつは、生き物たちにの住まいをなくしてしまうのだ。川の葦は、ツバメや鳥や魚たちの生息地だということはよく知られている。蛇行して、さまざまな石垣や川辺をもつ、かつての川は、生物多様性のあかしでもある。しかし、整備した川は、生物の多様性をなくす。また台風となれば、一気に水が海になだれこみ、砂浜を一気に沖合いにおしやり、魚や貝の生息地を奪ってしまう。

 このために坂口さんたちの漁業組合の青年部では、海の底を耕して、沖合いに押しやられた砂を戻す活動もしている。生カキの養殖の背景には、海の環境を守る活動も含まれているのである。(ライター、金丸弘美)

・坂口水産

佐賀県唐津市唐房6−5068−2

電話・FAX:0955−73−7608

 2007年1月21日