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ゆらちもうれ
「ゆらちもうれ」は、奄美・徳之島の言葉で「ゆっくりしていきなさい」という意味です。 ちょっと一休みして、食の現場からの直送レポートを楽しんでいただけたらと思います。
2005年 2006年 2007年 
このページの記事は、2005年4月から2007年3月まで、全国の食をテーマにした各地の新しい取り組みを「毎日新聞」のデジタルメディア「ゆらちもうれ」で、毎週、写真付きで紹介したものです。
第90回 仕込んだ味噌で鍋料理 大分・佐伯小
バケツ稲でできた児童のおにぎりも出て楽しい給食

 大分県佐伯市の佐伯小学校5年2組の児童27人は、家庭科の時間に「だんご汁」の料理で給食をした。だんご汁は、小麦粉をよく捏ねて、それを小さく団子状にしてから小判型にのばし、これに白菜、ニンジン、サトイモ、ゴボウ、タマネギ、ダイコン、シイタケなど、たっぷりの季節の野菜と一緒に炊き込む鍋料理。味噌で味をつける。

 佐伯では一般の家庭で作られてきたもの。それぞれに家庭の味がある。児童たちは、4、5人の班に分かれて、まず家庭のだんご汁の作り方を家でそれぞれ聞いてきて、それを学校で、グループごとで話し合い、班ごとのメニューを作成した。野菜も、それぞれの班で購入。同じだんご汁でも班で微妙に材料が違う。こだわって地域の野菜を多く使うところもあった。

味噌のティスティングを行ってから料理作りが始まった

 このだんご汁、児童が作ると言っても、ちょっと趣が違う。というのは、味付けに使う味噌は生徒たちが、半年前に仕込んだものなのである。自ら仕込んだ味噌での初めての料理なのである。この日の午前中は、5年1組と2組の両名が体育館に集まって、まず、3種類の味噌のティスティングから始まった。ティスティングの講師に招かれたのは、地元の麹屋本店の浅利良徳さん。児童に味噌作りを指導した地元の味噌や甘酒などを造っている。

 ティスティングでは、自分たちが作ったあわせ味噌(米麹、麦麹、大豆、塩)、市販の地域でよく売れているあわせ味噌、他県の米麹味噌(米麹、大豆、塩)。それぞれに少し材料や製法が違う味噌を味わい、香りや、見た目などを比較して、五感を使って言葉で表現をすることを試みた。味わいにいろんな表情があることを学ぶ講座である。

 この後、2組は、調理室で、味噌からのだんご汁を作ったのである。1組は、すでに前日、こちらは、味噌を使った創作料理というテーマで、料理をして食べたという。だんご汁は、野菜を洗い、皮をむき、刻んで、材料の準備から。どの班にも包丁さばきの上手な児童がいて、調理が始まった。大鍋にたっぷりの水、それに出汁をいれ、野菜を順次入れて、煮えたら、味噌で味をつける。みんな、真剣なまなざしでの料理。味噌での味付けも、それぞれが、ちょっと味見しながら、「薄い」「もうちょい」とか、みんなで、味を整えていった。おおよそ、一時間あまりで鍋が完成。

児童たちのお手製のだんご汁とナンの給食

 この日の主食はナン。それに児童たちがバケツ稲で育てたお米のおにぎり。おおよそ半年かけたバケツの稲から、1人一個の小さなおにぎり分のお米が収穫できたのである。この日、ちょっと冷え込んだこともあって、できたてのだんご汁は、体の底からじんわりと温めてくれる。野菜がたっぷり。手づくりの味噌の味は、やさしく、大豆と米のゆったりとした甘味がただよっている。野菜のうまみも調和して、味わい豊か。まるで、鍋は室内楽を奏でるような美味しさである。

自分たちで作った味噌での味付けをする児童

 この味噌からの料理、実は、半年以上も前から準備されたものなのである。佐伯の船頭町にある江戸時代から続く麹屋本店の、麹作りの室の見学、学校での浅利さんの指導による味噌の仕込み、その後、味噌の天地返しと麹菌の働きと甘酒の試飲、そうして、味噌のティスティングと料理となったのである。

 そもそもこの企画は、地元の江戸からの麹屋さんを、なんとか広く知ってもらいたいというところから始まった。伝統的な日本の文化である発酵食品。なかでも麹は、日本の食文化には大きなポジションを占めている。その麹を作り、味噌を作る江戸時代からの店が佐伯にはある。その文化を子供たちにも伝えようと、役場の企画課の人たちが、学校に赴いて話したのである。最初は味噌作りということだったのだが、せっかくだから生徒たちが作って食べる料理までという形になったというわけである。この試みは、好評で、来期以降も試みられる予定。また、他校からも問合せもあり、地域の伝統的な麹文化は、どうやら広がっていきそうである。(ライター、金丸弘美)

 2007年2月1日