第97回 ワークショップで生まれた地域のソフト開発の可能性
佐賀県で行われた「唐津玄海食のプロジェクト」。新たに合併した町の地域景観を使い、その地域のよさを再発見するというコンセプトで進められているが、それにしても美しく優れた風景を持つところが多い。また山間地から漁港までバラエティー豊かだ。
3月3日、厳木町で行われたのは、これまでの料理を味わうというのとは趣がまったく異なり、山間地の棚田の情景の中を散策し、じっくり風景を見てもらい“にぎり”を味わってもらうというツーリズムである。ここが同じ唐津市かと思うほど、緑の豊かな風景と清涼な空気が流れている。
厳木町の天川は標高550メートル。山間の寒暖の差のある棚田、50名の生産者が、米を栽培している。寒暖の差の多い棚田での米作りは最良の米「天川産コシヒカリ」として知られている。町の集会所に参加者が集まり、まずは佐賀県東松浦農業改良普及センター主査の平博之さんの、パワーポイントを使った米作りの話から始まった。全体の作付け面積は約50町歩ある。このうち、21名の生産者が15町歩で特別栽培米(減農薬・減化学肥料)を栽培している。
この後、快晴のなか、実際の棚田を生産者の千葉賢次さんを先頭に30名の参加者は見学した。周辺にはふきのとうやシイタケなどが出ている。棚田を作るために積み上げられた石垣が先人たちの知恵と営みを伝えている。見学の中で、参加者の質問に丁寧に答える千葉さん。米の生産だけでは年間1人あたり100万円にもならず兼業農家として米作りをしていること、先祖伝来の棚田を放置すれば藪になってしまうので、なんとか守っていきたいなど、美味しいといわれる米作りの背景に、生産者の地道な活動があることが紹介された。
棚田見学のあとに、炊きたてのごはんと、地域で女性によって作られているサツマイモの茎の漬物「カラグロ」を味わった。厳木は、米もさることながら、棚田の情景や山林の美しさを活かして、レストランや市場、体験ワークショップなどを組み合わせれば、新しいツーリズムのソフト事業を展開できるに違いない。ぜひ、その可能性を試して欲しい地域である。
厳木の山間地とは、うってかわって3月6日には、海側の玄海町でワークショップが開催された。玄海町は九州の北西部に位置し、東松浦半島にある。釣りでも有名なところ。会場となった玄海町町民会館は、畳敷きの大広間と玄海の海を一望できる調理室を持つ豪華な施設。ここでは、地元の上場大地で栽培されるイチゴを新しい食べ方ができないか、との提案から、ワークショップが組み立てられた。
佐賀県の特産のイチゴ「さがほのか」の新しい食べ方にチャレンジしたのは、今回の連続ワークショップに最多の3回も登板して腕を振るった和多田ワイズキッチンの中江義行シェフ。彼が、参加者の前で公開で見せたのは、だれもが思いもつかないイチゴの展開だった。なんと、イチゴにオリーブオイルやコショウ、塩などを入れてドレッシングを作り、それを玄海町の養殖鯛とイタリアン野菜にかけて食べるという魚介サラダ。さらにイチゴの温かいスフレである。参加者から思わぬ料理に目を丸くして驚いた人も。色合いや組み合わせの新鮮さ、意外やドレッシングにイチゴがマッチングして好評で迎えらた。
この料理の展開の間に同時進行で、佐賀県東松浦郡改良普及センターの進藤幸広さんからイチゴ栽培の詳細な取り組みがテキストを使って紹介された。玄海町のイチゴは140名が取り組み、11月から6月まで栽培されている。佐賀県のイチゴ栽培は全国7位。佐賀県内では、唐津地区玄海地区が主要産地だという。各県でブランド化が進められていて、競争が激化していて、産地間の競争も激しいという。
そんななかでの新しい食べ方の提案は、付加価値作りの一つのきっかけといえる。なにより、今回のワークショップで、大きな発見となったのは、海の見える調理室での実習形式であったこと。これを踏襲して、きちんとカリキュラムを組めば、十分人を呼べるプログラムが作れるだろう。そういう意味で、厳木、玄海町のワークショップは、新しい地域のソフト事業の可能性も感じさせる取り組みだったといえるだろう。(ライター、金丸弘美)
2007年4月4日
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