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ゆらちもうれ
「ゆらちもうれ」は、奄美・徳之島の言葉で「ゆっくりしていきなさい」という意味です。 ちょっと一休みして、食の現場からの直送レポートを楽しんでいただけたらと思います。
2005年 2006年 2007年 
このページの記事は、2005年4月から2007年3月まで、全国の食をテーマにした各地の新しい取り組みを「毎日新聞」のデジタルメディア「ゆらちもうれ」で、毎週、写真付きで紹介したものです。
第100回 本物の食と未来を次世代に伝えたい
佐賀県唐津市の中町商店街の農家の市場 

 2年間100回にわたった「ゆらちもうれ」の連載はこれで終了である。ご愛読ありがとうございました。これまでに巡った地域は、秋田から沖縄まで200カ所以上になった。テーマは「食育」と「食からの地域再生」。連載をしながら各地をめぐるうちに全国各地での愛読者の方々に声をかけられる機会も多く、多くの励ましになった。

 今、食の安全性や、食料自給の問題が、大きく取りざたされている。全国の現場に行ってみると事態は深刻である。農業では、小さな集落はまとまって農業を行い合理化が進められている。平地では、大きな農家に集中させて効率化がはかられている。また法人の参入を進めている。これによって、食料の自給を目指すというのだが、現実は、ほとんどうまくいっていない。食の生産だけに目がいっていて、そこからどう加工し、販売し、地域全体で、持続的な経済を目指すのかという視点がほとんど欠落している。

 仮にまとまった効率的な農業ができたとしても生産だけの農産物では、今後、自由化の流れのなかでは、輸入農産物に対抗できないだろう。一方で、農業に使う資材やハウスの重油、えさ代などが高騰していて、現場を圧迫している。また生産だけでは、スーパーや企業の下請けにすぎなく、これでは、地域の多くの人が生き残れない。農産物や魚介類を購入しているところは、大手スーパーやコープなどの大型の流通に集中している。ところが、各地で、スーパーやコープなどが激戦となっていて、価格競争が起こっている。そのシワ寄せは、生産や加工の現場に行くことになる。

古民家4軒を移築して生まれた蕎麦店「工房わらべ」=佐賀県武雄市

 また、地域の商店街は、道路の拡幅で、郊外の大手スーパーやショッピングセンターなどに客を奪われ、シャッター通りになっている。商店街そのものが家賃が高すぎたり、個々の商店の経営努力不足もあるが、街全体のパーソナル作りまで考えられていないケースが圧倒的である。そのために集客力がなく、魅力のない商店が増えている。個々がどうするかというのも大切だが、地域のパーソナルが不可欠である。

 地域を主体に考えるとき、それぞれが永続的に暮らしていくには、今の流れのなかでは、うまくいかないだろう。地域の個々の農家や商店、加工、町のデザインまでを含めて、もう一度、組み替える必要がある。これから求められるのは、地域のマネジメントとデザイン力である。その視点で、地域をまとめられる強力なリーダーシップが必要だが、まだ国内では、ごくわずかだ。そういう意味で、地域全体を考えた新しい動き、大分県の大山農協、三重県のモクモクファーム、茨城県のポケットファームどきどき、などを取り上げてきた。

また「食育」も、ある意味で地域のデザイン力が求められるものである。食育基本法と食育基本計画を読むと、生活習慣病の改善、自給率のアップ、食品リサイクル、食文化の振興を始め、その求めているところは、広範囲に及ぶ。あまりに範ちゅうが多すぎて、具体的にどうするのか、現場では戸惑いが多い。しかも、「食育」という言葉が、教育のように捉えられているケースが多く、啓蒙の言葉や概念だけがとびかっている傾向があり、現場で具体的にどうするのか、というプログラムがないケースが圧倒的である。あっても、企業本位のものや、料理教室の延長であるなど、ひとりよがりのものが少なくない。

年間420万人を集める大分県竹田市。名物のラムネ温泉

 そんななかで、地域と素材と、その歴史的背景から考察し、素材の加工技術、香り、味わいまでを、実際に食べ比べて、そこから食を考察し、また永続的な手法を組み立てていく、スローフードのワークショップは、きわめて有効な手立てである。しかもそのベースに素材のテキストを用いるのである。幸い、僕は、この連載期間に、大分県竹田市、佐伯市、佐賀県唐津市を始め、各地で、実際のワークショップの試みを現場の多くの方々と作ることができた。そして現場で動き始めた。それを連載で紹介できたことは幸いであった。

 これから、また現場に行き、活動と行動をともにしながら、執筆し、広く伝えたいというのは、これまでと変わらない。幸い、平成19年度、大分県では、平成18年度に続き「食育アドバイザー」に就任することとなった。また長崎県平戸松浦観光人材育成協議会地域活性化事業アドバイザーとなり、食のワークショップを手がけることとなった。3年目となる鹿児島県あまみ長寿・子宝事業推進委員として奄美の活性化事業のアドバイスも引き続き行うこととなった。大妻女子大学「食と社会」非常勤講師を始めとして、各地の現場を伝える場もいくつか与えてもらった。これからも、違う媒体や現場で、食の取り組みを続けたい。それは、本物の食と未来を、きちんと次世代に伝えたいという思いからだ。(ライター、金丸弘美)

 【編集部から】この連載は今回で終わります。長い間、ご愛読ありがとうございました。

 2007年4月19日