金丸です。
今日は「『母べえ』と『明日への遺言』二つの映画」の話です。
二つの戦争をテーマにした作品を観た。いずれもノンフィクション。深い印象を与える佳作である。一つは山田洋次監督の吉永小百合主演『母べえ』。一つは小泉堯史監督の藤田まこと主演『明日への遺言』。
『母べえ』の原作は黒澤明監督のスクリプター(記録)を長年勤めた野上照代さん。一方『明日への遺言』の小泉監督は、黒澤監督の長年の助監督をしていた。つまり黒澤監督と深いゆかりがあった二人の作品が、偶然同じ時期に戦争をテーマをしたものが映画となったわけだ。衣装は、両作品ともに黒澤監督の娘さんである黒澤和子さんである。
小泉監督のデビュー作は黒澤監督の脚本で遺作となった『雨あがる』だったのだが、僕は、掛川のロケに行き、小泉監督の撮影を二日にわたり取材し、インタビューも行った。そのときの監督補佐をしていたのが野上照代さん。
実は、さらにその前に、黒澤監督最後の作品となった『まあだだよ』では、現地ロケの取材をし、『七人の侍』から関わっていた美術監督の村木与四郎さんにインタビューをしたことがある。セットを作るにも、映像を考えて緻密な計算がしてあるのに感動したものだ。そんなこともあって、今回観た二つの映画がなんだか近しく感じられたものだ。
『母べえ』は、野上さんの父親が、みんなを親しみをこめて「べえ」を付けて呼んだことから、母親のことを「母べえ」、父親のことを「父べえ」と言ったことで、そこからタイトルがついている。それにしても野上さんの家庭に、こんな壮絶なドラマがあったのかと驚いた。
野上さんの母親役が吉永小百合さん(野上佳代)。父親が帝国大学の教授でドイツ文学を専攻してる。ところが、論文で検閲にかかり、社会思想犯として投獄されてしまうのだ。自由にものが語れない。言論統制が戦中下に行われ、それが犯罪とされる理不尽さ。
山田監督は、ひとつの家庭をじっくりと描くことで、その背景にある戦争と政治のゆがみと怖さをみせる。このところの山田監督の時代劇三部作『たそがれ清兵衛』、『隠し剣 鬼の爪』、『武士の一分』は、その存在感、充実ぶりは圧巻だが、それは、今回の作品でも変わらない。映画人として、野上さんの身の上に起こった日本の戦争の過ちは見過ごせないと、今回の作品となったのだろう。
『母べえ』が、家庭の婦人からの視点で、戦争を描いたものに対して、『明日への遺言』は、軍人として、戦後処刑された実在の第十三軍方面司令官兼東海軍司令官だった岡田資を描いたものである。しかも、戦後行われたB級戦犯(戦争犯罪に関わったとされる士官や部隊長が対象になったという)の裁判での模様を描いたもので、こちらも『母べえ』同様に戦争のシーンはほとんど出てこない。
巻頭に登場するニュースや記録映画での戦争の爆撃の悲惨さをさらりと見せるだけである。後は裁判のみが続く。岡田司令官(藤田まこと)は、東海地方のアメリカのB29の爆撃で、パラシュートで降下したアメリカの兵隊11名を斬首死刑をしたことで、法廷で裁かれる。
岡田司令官が担当していた名古屋地区は38回もの爆撃があり、焼夷弾でも、多くの人がなくなった。爆撃の壮絶さは、現在、『日本経済新聞』連載中の森光子さんの『私の履歴書』でも登場する。現場にいた岡田司令官は、部下の責任を一切をうけて、部下を守り、その背景にある爆撃という戦争のあり方を裁判闘争で、あきらかにする。
それにしても優秀な人材であった人たちが、戦争の中で殺されていく不幸。これはクリント・イーストウッド監督の『硫黄島からの手紙』でもそうだったが、戦争に行く人も国を守る人も家族も、すべてが戦争に巻き込まれていく。これらの作品がたて続けに登場したのは、あきらかにアメリカのイラクへの戦争から、日本にも戦争の過ちが広がりかけている懸念を、映画人たちが、語りかけはじめている。
『母べえ(かあべえ)』
監督:山田洋次
キャスト:吉永小百合、浅野忠信、檀れい、志田未来、佐藤未来 、
笑福亭鶴瓶、坂東三津五郎
公開日: 2008年1月
配給:松竹
http://www.kaabee.jp/static/
『明日への遺言』
監督:小泉堯史
キャスト: 藤田まこと、富司純子、ロバート・レッサー、フレッド・
マックイーン、西村雅彦、蒼井優、田中好子
公開日:2008年3月1日より全国松竹・東急系にて公開
配給:2007,日本,アスミック・エース
http://www.cinemacafe.net/movies/cgi/19623/
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発売日は、1月5日です。
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金丸弘美(食環境ジャーナリスト・食総合プロデューサー)
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