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  旅日記 no.003
「古唐津と太郎右衛門窯展」
2004年9月8日
「古唐津と太郎右衛門窯展」

僕の生まれは佐賀県唐津市、焼き物で知られたところだが、その唐津焼の中里太郎右衛門窯は、ほんの3軒隣である。13代目中里太郎右衛門こと中里逢庵さんのお嬢さん由美子さんから連絡があって、お父さんが唐津焼の研究で、なんと80歳にして学術博士号を京都造形大学から授与されたという。そのレセプションが帝国ホテルで行われるというので、9月2日、お祝いにでかけた。

早く着いた会場で、壇上近くの中里逢庵さんにお祝いを述べに行ったのだが、覚えてもらっているかしらんと心配していたら、「おおう、唐津くんちの本を出した人だね」と、言っていただけた。
 実は、僕は唐津の焼き物に匹敵する伝統文化の祭り「唐津くんち」の写真集とルポを出している。このときほど、本を出すという幸せを感じたことはない。

現在80歳だというのに、「これから中国を再び訪ねて、さらに唐津焼のルーツを研究したい」との挨拶に、すごいなと感心したのと同時に、とてもいい刺激をいただいた。

会場でしばらくすると、なんと音楽家の渡辺貞夫さんと、奥さんの貢子さんが現れた。思わず手を振って、近づくや握手をかわすと貞夫さんから「中里さんを紹介してよ」と言われてしまった。
貞夫さんとは、ケニヤやタンザニアに旅をさせてもらったり、貞夫さんの写真集をコーディネイトさせてもらったりしている。

これはごくごく身内の話だが、僕が中学生の頃のことだ。学校で工作の時間があって、粘土が必要になった。そこで思いついたのが、3軒隣の中里さんの窯だ。「あそこから粘土をもらおう」。
それで「おじちゃん粘土ちょうだい」と気軽に訪ねていったのだが、ロクロを廻していたじいさまが「君にあげる粘土はないよ」との返事。「なんで?」「この粘土を扱うのはむつかしいんじゃ」とのことだった。なっとくいかないまま、あきらめて帰った。

 その粘土をねだった人こそ逢庵さんのお父さん無形文化財の中里無庵さん(12代目太郎右衛門)さんだった。そうして当時無庵さんの隣でロクロを廻していたのが、逢庵さんだったのだ。
僕にとって無庵さんは、毎朝、自分の家の周りを掃き掃除している粘土をこねるレレレのおじさんみたいに思っていたのだ。

この話を渡辺貞夫さんに話したことがあって、大爆笑となった。
それで貞夫さんにホテルの会場で「あの粘土の人、紹介してよ」ということになったのだ。

レセプション後、日本橋高島屋で行われていた「古唐津と太郎右衛門窯展」を観たのだが、歴代の焼きものの素晴らしいこと。とりわけ16世紀、17世紀の枯れた感じの、焼きむらもそのまま生きた、自然体の古唐津のじつに味わいの深いこと。あらためて現代までの太郎右衛門窯の軌跡を観る事ができて感慨深いものが
あった。

また初期の唐津を蘇らせた12代の仕事も、色合いといい、その造詣といい見事というしかない。大変な人に、粘土をねだったものである。

「古唐津と太郎右衛門窯展」
・東京会場 日本橋高島屋 9月1日から6日
・大阪会場 近鉄百貨店  10月9日から10月13日
・京都会場 京都高島屋 10月20日から10月25日




金丸弘美
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