こんにちわ、金丸弘美です。
今日は「諫早湾干拓・原因裁定を検証する」について
ずっと気になっていたのに、もう一歩踏み込めなかったものに諫早湾干拓がある。というのも僕自身が全体像をうまくつかめていなかったからだ。僕の所属する日本ペンクラブでは、諫早湾干拓の中止を求める声明を前会長の梅原猛さんのときに出しているが(現会長は井上ひさし氏)、その全容を具体的に知りたいと思っていたところ、『諫早の叫び よみがえれ干潟ともやい』(長尾俊彦著 岩波書店)というすぐれたルポが出て、書評を行うこととなり時事通信を通して配信された。
諫早湾の干拓は、福岡、熊本、佐賀、長崎の漁民の生活圏である有明海の、海苔やアサリ養殖、魚貝の漁業を衰退させ、自然生態まで影響を与えていると指摘される長崎県諫早湾の干拓事業である。諫早の湾内を縦断して7キロにもわたる潮止め堤防工事は、俗称ギロチンと呼ばれる。1997年の工事は潮流を変え、自然生態を激変させ、周辺漁業に甚大な被害をもたらした。
そもそも諫早干拓は、1952年長崎県で持ち上がった。水田造成と米増産が目的だった。しかし、その後、海苔養殖の成功で、地元漁民にとって干拓が必ずしも必要とされたわけではなかった。早期の干拓ですでに入植した者にとっては、畑の塩害や水害の防災こそが必要だった。
1962年、干拓計画着工は認められる。規模は諫早湾全域。漁業で生計を立てる多くの漁民からは反対が起こる。1970年、米の減反を境に干拓は一旦中止される。ところが、大型の公共事業として、県と農林省構造改善局の判断で再開される。名目は水資源と畑作確保。そうして、地元漁民は、公共の御旗と保証金で次々と切り崩されるのだ。
ところが1982年、湾外と県外の漁民の合意が得られないと構想は打ち切られ、変って防災事業としての干拓が浮上する。総事業費は1350億円の公共事業(86年当時)である。89年着工が始まるや、湾外の漁業に多大な被害が出始める。97年ギロチンが敢行されるや、漁業被害は有明全体に広がる。農水省の話では、影響は許容できる範囲、のはずだった。しかし、事態は改善されないばかりか、不漁から転職、自殺と、有明を生活の糧とする多くの漁民に深刻な影響を与えている。
2005年1月12日佐賀地裁は漁業者の訴えを認め工事差し止め仮処分を決定したものの、5月16日福岡高裁は決定を取り消し、その後最高裁に抗告が行われたものの9月30日、漁業者側の抗告を棄却された。「漁業被害は認められるが、現在の証拠関係からは、漁業被害と干拓事業による環境影響との関係については、高度の蓋然性(がいぜんせい=確実性の度合い)を認めるには至らず、申請人(漁民)の申請は棄却する」という理由である。諫早湾干拓事業の工事が今も続いている。
10月22日、本にも登場する多くのメンバーが集まっての『諫早湾干拓・原因裁定を検証する 本当に「因果関係は不明」なのか』のシンポジウムの案内をもらい、参加することができ、直接話を聴くことができた。この会は、自然保護助成金の助成をもとに行われたものだが、調査にかかわった錚々たる人が発表を行った。
堀良一(弁護士)、佐々木克之(元中央水産研究所)、堤裕明(熊本県立大学教授)、東幹夫(長崎大学名誉教授)、宇野木早苗(元東海大学教授、田北徹(長崎大学名誉教授)、宮入興一(愛知大学教授)、平方宣清(佐賀県大浦漁協)といった顔ぶれである。
いくつか拾い上げると、「有明全体に急速に広がっている赤潮の被害が、潮止め堤防工事後に劇的に増えている。それ以前の最高値の発生の倍以上である。データ的に明らか」(堤氏)。堤防工事で、有明湾に流れ込む水流が変化し、湾外に押し流されていた筑後川からのチッソ、リンなどの栄養塩素の流入が湾内に留まるようになり、異常な赤潮を発生させ、海苔養殖に甚大な被害を与えている。
さらに潮流の変化は、湾の底の砂の質を変化させてしまい、地元漁民の大きな収入源であったタイラギ(二枚貝)を、絶滅に近い状況に追い込んでいる。その要因は、「底の砂が細粒化してしまい幼貝が成長しない。大量の赤潮発生で、酸素が奪われ酸素が欠乏する貧酸素が生じている」(東氏)などが指摘された。
さらに財政的には、「諫早湾干拓事業の総投資額は2460億円。
その対費用効果は、1・03といわれていたものが、変更され1・01から、さらに変更され0・83になっている(400億円以上の赤字となる)。これは自然破壊による数字は含まれていない。納税者として国民として理不尽なお金の使い方。事業資金のうち防災効果が4分3とされるが、機能が不十分。本来の目的であった農業では10%も満たない」(宮入氏)
また「2460億円の中身は、県や市町村のものは含まれていない。
この後、農地はリースにするという話が出ている。長崎が引き受けることとなるだろう。レンタルでという話だが、下水道が不完全で、塩水が出る状況にあり、果たして農地レンタルで農業を行うものがいるのか。不良債権化する。それはつまり私たちの負担になるのだ」(宮入氏)
もっとも印象的だったのは、佐賀県大浦漁協の漁師・平方さんの言葉だろう。「私たちは、12月から4月が潜水によるタイラギ漁、7月まではアサリの養殖、そのあとワタリガニ、お盆過ぎにクルマエビで生計を立ててきました。しかし、97年に堤防ができてから、次の年に赤潮が発生。魚が大量に浮かんで死滅しました。タイラギは毎年半減し、98年から休業状態です。かつて10日操業すれば100万円になりました。それが3万円にもならない」
「アサリもほぼ壊滅しました。貧酸素によるものです。今、ミカンもぎのアルバイトで、なんとかしのいでいます。でもそれでは暮らしていけない。私たちは海で育てられた。でも子どもたちはどうなるのか。また自殺者がでるのではないかと心配もしています」
平方さんに質問をした。私たちと連携できることはなにか?「じつは筑後川を通して、有明にビニールやゴミが流れ着く。それらを一般市民の人に、実際にゴミ拾いを体験してもらい、そこからまず有明をしってもらおうということを始めたいと思う」
さらに堤先生にも尋ねた。チッソ、リンが流れ込むという原因の源は、農業で使われる化学肥料なのか?「上流には住宅、ペンションんなどがあります。それらの生活水、畜産の糞尿、そうして農業の肥料です。さまざまなものが含まれています」とのことだった。
この諫早湾の干拓を巡る環境をもっと広く知らしめ、私たちの暮らしを知らなければならない、同時に、なんとしても止めなければと思う。
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