こんにちわ、金丸弘美です。
今日は「 スローフードと地域経済」について
ここ一年で秋田から奄美まで、100箇所近くを訪ねた。各地の講演やシンポジウムなどで呼ばれるのだが、よくスローフードの言葉が使われる。地方でもスローフードという言葉は、すっかり浸透しているなあという印象である。実際、スローフード協会の支部も北海道から沖縄まで設立されて、その数は46にもなる。
ところが、スローフードというのが、いまだに地方の郷土料理や、安心安全な食べ物と思われ、その活動もボランティアというのが少なくない。実は、国際本部のあるイタリアのスローフード協会が、地域経済活動を担う事業体であり、博報堂や電通のようなプローモーションをしている事業を行っているのだ、と理解している人はほとんどいない。
スローフードは、イタリアのピエモンテ州ブラに本拠地を置くNPOで、スタッフ140名を抱える食文化をプロモーションする事業団体である。全世界8万人の会員を擁し、出版事業、食の教育
事業、食のイベントの開催、大学運営などを行っているのである。
ちなみにイタリアの会員は4万人。会費が50ユーロ。となると会費だけでも3億円近い収入があることになる。
この10月26日から30日までに行われるイタリアのトリノでのスローフード協会の最大のイベント「サローネ・デル・グスト」のプレス向けのリリースが送られてきた。DVDつきで、詳細なプログラムの入った豪華なものである。それには州政府や企業スポンサーのロゴが入っている。
前回のイベントでの州政府のスポンサードを訊いたら1億5000万円。企業スポンサードは一社3000万円であった。これに4日間の入場者14万人の、約2000円の入場料。さらには、会場内での70以上にもおよぶ、有料のワークショップなどを考えると、一イベントだけでも10億円以上の収入を得ることになる。
その資金を背景に、全イタリアの食のべランドの推進を行い、140名のスタッフの雇用をし、さらに観光事業に結び付けて、食の地域ブランドを推進し、バイヤーやレストランとの取引を可能とし、マスコミと出版を使って大きなプロモーションを可能にしている。そうして地域経済の活路を開いているのである。こんなNPOは、日本には存在しない。
彼らの活動で、僕がもっとも感心したのは、出版だ。イタリア全土から集まる優れた地方のレストランやワイン、食材などの情報を集め、それらがガイドブックとして編集され、販売される。本の出版は、地域の食の付加価値を高めて、地域のブランドを作る。
レストランには、全国から人が集まる。出版の利益はスローフードに、もたらされるという仕組みである。
もともと彼らの活動は1970年代にさかのぼる。地域のぶどう農家にフランスからのワインの醸造法、加工法、販売のノウハウを持ち込んだのが始まりである。ぶどう生産しかできずに、収益
性が低く、後継者もできない農業に、加工、販売の技術をもたらし、それの宣伝と販売先をもたらした。それが地域農業を活性化させたことに、スローフードの事業は、始まる。
スローフードの生まれた背景には、ファストフードに象徴される企業の画一化された食の進出で、地域の多様な食文化が衰退し、人工的な味で味覚までも麻痺させ、コミュニティの崩壊につながるという危機があったからだ。また大量生産大量消費の農産物や畜産は、地方の小さな農家を追いやり、環境を破壊し、農業を衰退させることに繋がった。
ちなみに、イタリアの農業人口は、就業人口の5・1%。日本は4・4%。それも年々下がっている。日本はさらに深刻なことに自給率は40%と先進国では最低。ちなみにイタリアは80%である。こんな背景があって、イタリアでは、地域の農家と環境と多様な食の文化を守る活動が始まったのである。日本にもスローフードの支部はあるが、地域経済活動に寄与する活動になるのは、まだこれからだろう。
スローフードの名前はともかく、僕が知って欲しいのは、イタリアにおける地域経済の活性化のシステムや、地域のブランド作りやプロモーション戦略といったソフトの根本的なところである。
それがないと持続的な活動はできない。地域行政や町づくりも、スローフードが行っているような戦略にこそ金をかけるべきではないか。
日本国内では、スローフードの活動より、三重県のモクモク手づくりファームや、福岡県のグラノ24Kぶどうの樹や、大分県日田市大山町にある「大分大山町農業協同組合」や、茨城県のポケ
ットファームどきどきのような、新たな農業からの地域経済システムの活動こそが、むしろスローフード協会が行っている事業に近い。彼らの共通していることは、自らが価格決定権を持ち、加
工、販売、サービス、レストラン事業、ツーリズムまでを事業化したことだろう。
いずれにせよ、これまでの、また現在も進められている、農業の現場での生産を主体としてきた、また合理化と画一化、規模の拡大といった路線の農業では、さきゆきはまったくないだろう。企業の進出という形でも農業は生き残れない。かりの合理化して大型化したとしても、生産だけでは、企業の下請け農業になりかねない。農業は、地域の暮らしが豊かになるものでなければ、地域全体が豊かにはならないだろう。自らが主体となって、生産のみならず、加工から販売までのイニシアティブをもてることが必要だ。
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◇放送日時予定 平成18年8月13日(日) 14:00−15:50生中継
◇会場予定 佐賀県武雄市若木町 大楠公園
◇出演者予定
・金丸 弘美(佐賀県唐津市出身・食環境ジャーナリスト)
・山田 信行(武雄市在住・若木51世紀クラブ・一級建築士)
・林 真実(消費生活アドバイザー)
・川埜 ゆかり(富士大和森林組合職員)
ゲストコメンター
・上田正樹・朝本千可夫妻(ミュージシャン・スローライフ実践者)
◇司会進行 鶴丸英樹(サガテレビアナウンサー)
古賀奈津子(サガテレビアナウンサー)予定
金丸弘美
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金丸弘美・著 絵・唐仁原教人
奄美・徳之島に移住した家族と島の人々との物語。
第10回ライターズネットワーク大賞受賞。
NHK総合「私の本棚」、NHK FM「ポップスライブラリー」
で連続朗読番組として放送。雑誌、ラジオなど73媒体で紹介。
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実践的教典である」(東京農業大学教授 小泉武夫)
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◎全国「食」の活動は毎日新聞デジタル「ゆらちもうれ」で連載中。
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