こんにちは、金丸弘美です。
「食べ物と農業の本のこと」
このところいくつか食と農業関係の本を読んだなかで印象深かったものを取り上げてみたいと思う。
『日本の食と農 危機の本質』(神門義久著 NTT出版)は、出色の一冊。地域農業が、いつのまにか土地の売買と土建行政に絡めとられて目先の金に終始している実態、そのために優良農業地ほど農地が喪失している現実。JAが金融と共済が主体であって農業事業そのものには考慮されていない経営力のなさ。などが浮き彫りになる。これだけ、農業と土地とそうして地域の現状を喝破した本も珍しい。
「一神教の闇 アニミズムの復権」(安田吉憲著 ちくま新書)は、キリスト教に代表される畑作牧畜民族が森林を破壊し持続的環境を切り裂いている。常に拡大を目指してきた彼らは、力と闘争の文明の論理で、各国に圧力をかけている。その上に構築されたグローバリゼーションに未来はないという危機を書く。一方、日本は森林や海を愛した現世を神とたたえ、すでに江戸期に循環型のシステムを構築していた。日本やアジアに育まれた現世秩序のアミニズムこそ未来型の思考であるというテーゼ。この文章には、圧倒的な力がある。
「強毒性 新型インフルエンザの脅威」岡田晴惠編(藤原書店)は、2004年に山口県、大分県、京都府の養鶏場で鳥インフルエンザが流行し、大量の鶏が処分されたことで注目されたウィルスについての専門家によるレポート。ウィルスは東南アジアを経て各国に広がり180カ国以上で確認。感染した鶏は100%死亡。処分された鶏は1億8000万羽。人の死亡は229名。
(2006年7月現在)人が感染すると死亡率は57%という。
このウィルスが現在の大型化した養鶏システムから生じていることを指摘。BSEと構造的には同じという事実を明らかにしている。H5N1型ウィルスは、これまでのタイプとは異なり強毒性を持つ。どこかで猛威を振るえば、人類が経験したこともない被害に広がる恐れがあり、国連では1億5000万人の死者が想定されているという。
「雁よ渡れ」呉地正行著(どうぶつ社)。宮城県田尻町の雁を呼び戻した田んぼ「ふゆみず田んぼ」の実現に大きく貢献した日本雁を保護する会会長の雁からの視点での取り組みが書かれる。これを読むと雁の生息する日本の湿地が宅地や工場地にとってかわり、9割近くが失われた現実。一方で、自然の喪失が、鳥や生き物の生態系を壊したばかりでなく野鳥の住み場がなく、残された沼地に大量に野鳥が集まることで、野鳥自体にも病気が蔓延しやすい状況を作り出してる自然破壊の実態も浮かび上がる。
「野菜の時代 東京オーガニック伝」瀬戸山玄著(NHK出版)。東京都世田谷区等々力にある380年続く農家・大平博四氏の農園。有機農業の早くからの実践者として、全国に知られている。
そこに農業を学びにきた著者が、農園に関わった人たちを通して、現在の農業のありかた、食の問題を提起する。大平農園を書いたものは私の著書も含めて多くあるのだが、著者は自ら農業を体験し、かつ関わった人々を追いかけて、現在の大量生産大量消費の方向に流れていった食のゆがんだ構造を浮かびあがらせている視点が素晴らしい。
「にっぽんたねとりハンドブック」プロジェクトたねとり物語著(現代新書)。食育や地産地消がさかんに言われているのに、まずほとんど話が出てこないのが種の問題。この本によると種の自給率は28パーセント。ものによっては10パーセントというものもあるという。種から読みとかなければ、本来の食育も食の文化も地産地消もないというものだ。在来の種を含めて地域に育った種を栽培し残してきた兵庫県を中心とするメンバーが、種の由来から栽培法、種の入手先まで、現在わかるものを丁寧に集めている。
「地球の食卓 世界24カ国の家族のごはん」ピーター・メンツエル、フェィス・ダルージオ著(TOTO出版)。ブータン、キューバ、トルコ、中国、日本にも足をのばして、普通の家族の家庭の一週間の食料を家族とともに撮影。家庭の食が、一冊の本となり俯瞰されることで、ファストフードによる生活習慣病の蔓延や、経済大国と発展途上国との格差や、さまざまなことが、クローズアップされる。近代化する生活には、あらゆる加工品やインスタント食品や、ファストフードや清涼飲料水がまぎれこみ、綿々と受け継がれた食の文化は消えようとしている。同時に、私たちが自然の循環から離れた営みを、どうやら世界規模で始めているようだ。
■金丸弘美2006年話題の本!
私たちの「食」が危ない! 食の姿が見えてくる48の事実を、豊富なイラストで紹介するオールカラー・ビジュアルブック。
・『フードクライシス 食が危ない!』
・金丸弘美著 イラスト・ワタナベケンイチ
・出版社:ディスカヴァー
http://www.d21.co.jp/
・価格1260円(税込) ・ISBN4-88759-438-0
・サイズ:A5変形(142×194)120ページ オールカラー
・問合せ:電話03−3237−8991
・本のご注文はAmazon.co.jpから
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「東京都の食料自給率は1%」
「もし食料輸入が止まったら、卵や肉は10日に1食」
「エビは95パーセントが輸入」・・・・など、驚くべき事実、
意外な真実から「食」の世界の興味が広がります。
◎全国「食」の活動は毎日新聞デジタル「ゆらちもうれ」で連載中。
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