こんにちは、金丸弘美です。
今回は輸入牛肉再開賛否の行方についてです。
「もう牛肉を食べても安心か」
今、アメリカの牛肉輸入の再開が論議されているが、私たちの関心は、BSEは、果たしてもう大丈夫なのか、ということだろう。そんななかで登場したのが「もう牛肉を食べても安心か」(文春新書)である。
著者の福岡伸一さんとは、京都大学助教授時代に「ソトコト」編集長の小黒一三さんに紹介され、その後何度かあっている。現在は、青山学院理工学部化学・生命科学科教授である。
福岡さんはBSE(Bovine Spongiform Encephalopathy=牛海面状脳症)のたんぱく質であるプリオンの研究を行ってきた人である。以前、東京農大教授の小泉武夫さんとともにお会いしたときに「鶏にも牛骨粉はたくさん食べさせているのに、このことは報道にまったく出ていない。鶏にBSEは出ないという根拠はあるんですか?」と、尋ねたことがある。
「哺乳類でないということでBSEは出てこないとしているだけで、なんの根拠も保障もないんです」と言うのが回答であった。
実は、牛のみならず豚も鶏にも飼料として輸入の肉骨粉は大量に使われてきたのだ。そうして同じ席で小泉さんが、冗談のように「人にうつりますか?」と訊くと、福岡さんは小泉さんの手を握って「うつりますよ」と答えたのだった。すると小泉さんはあわてて手を振り払って、お絞りで丁寧に手をぬぐい、「近づかないようにしようと」と笑った。
今回の著作は、その後のプリオンの行方を詳細に追いかけている。結論からいうと、その原因、対処方法、具体的な対策、その感染の経過に関しては、まだはっきりしたものはいまだ究明されていない、ということである。一方で、日本では、1996年、脳外科手術で硬膜手術をうけた患者で48名の人の海綿状脳症であるヤコブ病の患者が見つかっている。現在、94名が分かっているという。
硬膜手術で使われた脳内の膜は、ドイツから輸入されたもので、BSEの牛を食した患者の死亡者のものが使われたとされている。イギリスでは輸血からも2例の新型ヤコブ病患者が見つかっている。つまり人にもうつる。また角膜手術のミスからも感染したことが分かっている。しかもプリオンは、次の生命体に移動するときに、進化しているのではないかと目されているのである。イギリスでは、BSEにかかった牛は約90万頭、食肉には約70万頭以上が使われたとされる。患者はこれまで150人が見つかり、毎年17人から20人が死亡している。現在、3800人の潜伏患者がいるのではと推定されという。日本は14頭のBSEの牛が見つかっている。
BSEのもともとの感染源は、羊にあった。奇妙な行動をとり、体を木や柵に「こすりつける」行動をすることから、スクレピーと呼ばれた。これは1730年には詳細な報告がされているという。すでに1930年代にスクレピーは、感染症だということは分かっていた。ただし、それが他の動物や人にうつるものとは考えられていなかったのである。
アクシデントの始まりは、1985年4月、イギリスの牧場からだった。そこから多数の乳牛に狂牛病が発生した。その原因が乳量をたくさんとるために高タンパク、高カロリーの餌として、羊、牛、豚などの食用以外の部位を再生した肉骨粉が使われた。そのなかに死んだ羊や他の動物の死体が使われた。そうしてスクレピーの羊が紛れ込んだと、推定される。肉骨粉の使用は1988年以降禁止されたが、その後もイギリスからは、海外に大量の肉骨粉が輸出されたのである。
アメリカでの牛肉輸入解禁の根拠がきわめて曖昧なことに著者は警告を鳴らす。それには、
①イギリスからの輸入は1989年に止まったが2000年以降にも発生国が増えた、
②1997年まで肉骨粉の牛への給餌は合法で、97年以降も非反芻動物(豚、鳥、ペットなど) 由来の肉骨粉の給餌は合法である、
③アメリカでは30ヶ月以下の牛の脳、脊髄を特定危険部位と認定していない
(扁桃腺と回腸のみ)、
④アメリカの検査は20万頭は、全体500万頭のわずか0・5%に過ぎない。
などをあげている。
いちばん肝心なことは、まだ原因が不明であること。なにより、これらの感染が、そもそも人為的な、大量生産大量消費の論理から生まれているということである。それは遺伝子組み換えとも通じるものであることを、著者は強く訴える。そうして僕らは、牛の、食の現場を知るとともに、食べることに、もっと注意深くあらねばと思うのだ。それは生命の根幹に関わることだからである
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※徳之島の方言で「ゆらしぃ」は「ゆっくり」という意味
同行講師:食環境ジャーナリスト 金丸弘美
南の奄美諸島、鹿児島県徳之島を訪ね、手付かずの自然や昔ながらの文化を大切にする島の人たちとのふれあいを通じながら、都会のでは味わうことの出来ない島の生活を体感するシリーズ第2弾!!
第1弾(6/17-6/20)の旅の様子はHPにて紹介しています。
http://www3.synapse.ne.jp/mcmaru/yurashii01.htm
□日程:2005年2月10日(木) ~2月13日(日) 3泊4日
企 画:朝日カルチャーセンター 電話:03-3344-2041 担当:大野
協力:ニッポン東京スローフード協会、
観光かごしま大キャンペーン推進協議会
旅行主催:日本通運(株)首都圏旅行支店日本通運
電話:03-6251-6356 担当:蔦谷(ツタタニ)・名塚
http://www.acc-web.co.jp/sinjyuku/0501koza/G0201.html