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  旅日記 no.023
坂田明さん
2005年1月19日
こんにちは。金丸弘美です。

 砧の近所を歩いていたら掲示板に、ジャズサックス奏者の坂田明さんが砧区民会館でコンサート。「坂田明mii「ひぃ、ふう、みぃ」2005」を行うというポスターが掲示されていた会館までは歩いて15分の距離、成城学園駅の近くだ。
それで散歩がてら、ふらりと当日券を買って会場に入り、まっすぐ楽屋を訪ねた。

 坂田さんは、目をまるくして「おう、おい、奄美に住んでるんじゃないか? まあ座りなさいよ」と椅子をすすめてくれた。
「不耕起栽培に、スローライフに、やること次々当たってるねえ」と、坂田さんは本気とも冗談もつかない口調で「その後、不耕起栽培はどうなっている?」と尋ねられた。不耕起栽培というのは、耕さない田んぼのことで、この発展した形に、冬に水を張る「冬期湛水水田(とうきたんすいすいでん)」があり、宮城県田尻町、佐渡島などに広がり、メダカはもちろん、白鳥やマガンまでが戻ってきたのである。

坂田さんは「そうか、そこまでいったか。俺の知り合いにも田んぼをしている仲間いてさ、そいつにも不耕起栽培を薦めたんだ。やるってさ」と嬉しそうに話してくれた。実は田んぼにメダカや白鳥、さまざまな生き物が戻ってくる物語「メダカが田んぼに帰った日」(学研)というドキュメントを僕は書いていて、その出版記念会に坂田さんは来てくれた。坂田さんは、本をしっかり読んでくれていたのだ。

坂田さんはジャズミューシャンとしてはもちろん有名だが、自宅にミジンコを飼っていて、ミジンコ博士としても知られ、自然環境問題も詳しいのである。かつて、僕らが企画・編集していた雑誌やテレビで淡水魚やミジンコの解説者として登場してもらったことがあるのである。

坂田さんと会うこともライブに行ったこともそれほど数が多くはないのだが、しかし鮮烈な印象を僕の中に残している。
それは、1970年代であったか、冷やし中華はなぜ冬に食べられないのか?ということから始まったライブ「空飛ぶ冷やし中華祭り」でのセッション。新宿ピットインでの山下洋輔さんや小山彰太さんたちとの激しい応酬。その後の、民謡の伊藤多喜雄さんとのライブセッション、ハロルド・ピンターのなぜか舞台出演での役者の坂田さん、加藤千恵さん脚本で高平哲郎さんが演出した「カッコーの酢のもので」のときの音楽と打ち上げでの宴会芸、高平さんの本「スタンダップコメディの勉強」の出版記念会でのコントなど、どれもが、次々に蘇ってくる。

さてライブである。サックス:坂田明、ベース:バカボン鈴木、ピアノ:黒田京子というとトリオ。黒田さんは、楽屋でちらりと紹介されて挨拶を交わしたが、ピアノがとても軽やかでリズミカルで、しかも飛翔感があってとてもいい。坂田さんの大胆奔放なサックスとあいまって、そのコラボレーションが、縦横斜めにからまり、かつ大きな宇宙を舞台に現出させる。

とくに気に入ったのが、広島の瀬戸内海の民謡だという「貝殻節」で、前半と最後に坂田さんのボーカルが入るのだが、実に声がいい。民謡を取り入れたジャズは、おそらく伊藤多喜雄さんとのセッションからインスパイアされて生まれたものなのだろう。瀬戸の荒々しい浪のうねりや、太陽のプリズムを通したように多彩なきらめきなどが、音楽のなかから湧き出してくるのだった。そうして坂田さんの力強く、強烈なパーソナリティを放つサックスは健在であった。

舞台が跳ねて坂田さんの最新CD「赤トンボ」を買ってサインをもらいに行き握手を交わした。坂田さんは「また呼んでくれよ。必ず行くから」と言ってくれた。

■坂田明最新CD
「赤トンボ」(ダフニア)
■「メダカが田んぼに帰った日」(金丸弘美著 学研)