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  旅日記 no.046
「ミリオンダラー・ベイビー」と「シンデレラマン」二つのボクシング映画
2005年6月29日
「ミリオンダラー・ベイビー」と「シンデレラマン」二つのボクシング映画

このところいくつか映画を観たが、そのなかで印象的だったのは、ドイツ映画「ヒトラー 最後の12日間」、「バットマン・ビギンズ」、「愛についてのキンゼイレポート」、イラク映画「亀も空を飛ぶ」なのだったが、とりわけ気になったのが、二つのボクシング映画クリント・イーストウッド監督・主演「ミリオンダラー・ベイビー」とロン・ハワード監督「シンデレラマン」である。

二人の監督は好きで、ほとんどの作品を観ている。新作を続けて観たら偶然テーマが同じで、ボクシング。もっともアプローチがまったく異なる作りになっている。「シンデレラマン」は、9月公開予定だから、まだ試写が始まったばかりなのだが、1920年代から30年代に実在し活躍したボクサーのジム・ブラデックがモデルになっている。ジムを演じるのはラッセル・クロウ、妻役は僕の大好きな女優レネー・ゼルウイガーだ。彼女は「草の上の月」と「ベティ・サイズモア」「コールド・マウンテン」が、もっとも気に入っている作品だ。

ジム・ブラデックは、19歳でボクシングプロデビューをした。23歳の絶頂期に負傷し惨敗。その頃起こった恐慌で財産を失い、日銭を稼ぐようなボクシングに出る暮らしとなるが、怪我が多く、負けが込んでいく。試合にならないとボクサーの資格を剥奪されてしまうのだ。そこから日雇い仕事を見つけて港湾の労働者となる。そのころ世界ランク2位のコーン・グリフィンが強すぎて相手が見つからず、ジムが対戦者に引き出される。ところが予想をはるかに裏切って、彼は勝ってしまうのだ。

まるで「ロッキー」だが、実話だと知って、びっくりである。ボクシングシーンが迫力である。ラッセル・クロウが、後半になるにつれて、だんだんと力強いファィトになっていくプロセスも見事だ。1920年代から30年代の風俗も丁寧に描かれて、その当時のファッションを見るだけでも楽しい。

ジムは、ボクシングを通して、家族を守り、その絆を強くしていく。家族が一つにまとまるということが、どんなに素晴らしいことかを、ストレートに描く。一方で、いかにもアメリカらしい、凋落と栄光の落差の激しい現実も垣間見える。それがあるからこそ、ジムを中心とした家族愛が、まるでおとぎ話のような、理想の神話として語られるのだろう。


「ミリオンダラー・ベイビー」は、「シンデレラマン」とは、まったく対照的である。ここに登場する人物は、家族はみえてこない。みんなどこか孤独を背負っている。ボクシングに憧れる女性マギー(ヒラリー・スワンク)と、ジムのオーナーでトレーナーのフランキー(C・イーストウッド)と、彼と長年の友人でもあるジムに住み込みで働いている雑役係フラスクラップ(モーガン・フリーマン)の3人を中心としたドラマだ。

貧しい暮らしの生まれでウエイトレスの仕事をしているマギーが、フランキーにトレーナーを頼む。だが、最初は、まったく相手にされない。ところがスクラップの働きかけから、やがて彼女のトレーナーを引き受け、次第に彼女をボクサーとして育てていく。ここから、まったく別々の人生を歩んできた3人が、まるで家族のような愛情で繋がっていく。

物語が進むうちに、フランキーは、娘とは絶縁状態にあるらしいこと、スクラップはかつてボクサーをしていてチャンスのときに右目を傷つけボクシングを断念したこと、マギーは家族がトレーナー暮らしをしていて、母親や姉たちから疎んじられているということがわかってくる。家族からはぐれてしまった者同士が、家族以上の絆をマギーのボクシングを通して見出していく。

これは、まるで現代における寓話のような物語なのである。家族像としては、まさに現在を反映しているといえる。ところが、マギーがボクサーとして成長し、戦績を少しずつ重ねていくうちに、3人の絆は深まっていく。それぞれの孤独と悲しみの深さと、まるで反比例をするかのように。そうして家族以上の愛情へと変化していくのだ。

二つの映画は、どちらが事実を基にしたかわからないほどの力強さをもっている。いずれもアメリカらしい、ボクシングという力と体一つで、栄光を勝ち得るという、物語なのだ。しかも家族と愛がテーマになっている。二つの映画にある力強さを感じるからなのだろう、観終えてもずっと心を揺り動かし続けている。


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